初夏を代表する魚・カツオ。日本人に古くから愛されている魚ですが、今年の水揚げ量は記録的な低さとなる可能性が出てきています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
初鰹のシーズン
俳句にも詠われた日本の伝統食材・初鰹。3~6月にかけて各地で水揚げされるカツオのことで、脂のない赤身のさっぱりとした味わいが好まれます。刺身やタタキの食材になるほか、鰹節原料としても需要の高い主要水産物です。
江戸時代には1本3両(今の価格で約27万円)という法外な値段がつくこともあった初鰹。今ではそこまで高値がつくことはありませんが、それでも初夏の訪れを告げる存在として愛されています。
和歌山の「ケンケン漁」では不漁
初鰹は、2~3月に鹿児島で始まる漁を皮切りに、徐々に漁場が北上していきます。とくに太平洋側の各県での水揚げが多く、鹿児島、宮崎、高知、和歌山、静岡などで近海カツオの水揚げが多くなっています。
そのうちの一つ和歌山県では、「ケンケン漁」という漁法が盛んに行われています。曳縄でカツオを獲るこの漁は、3~5月が最盛期なのですが、4月までの水揚げは、主要な漁港の水揚げを合計しても約3.8t。比較的好漁だった昨年は同時期で約163.3tの水揚げがあったので、実に50分の1以下に落ち込んでしまったということになります。
ケンケン漁の水揚げは、2000年の1957tをピークに年々減少しています。現時点での最低値は2018年の139tですが、現状のままであればそれすら下回る可能性もありそうです。(『カツオの水揚げ激減 紀南の主要3漁港、昨年の好調一転』紀伊民報 2020.5.19)
不漁の要因は黒潮大蛇行
日本では、水産研究・教育機構内の機関である「国際⽔産資源研究所」が毎年春に、曳縄漁を対象にしたカツオ春漁の来遊量予測を実施しています。そして、実は本年2020年2月に発表していた予測では、カツオ来遊量は過去5年の平均を上回るとされていたのです。
しかしその一方で、「黒潮の大蛇行に伴い、沿岸域の曳縄漁場にはカツオが来遊しない 19℃未満の水温が広がるため、沿岸域での漁獲は少ない可能性がある」とも予測されていました。(『令和2年ひき縄を対象としたカツオ春漁予測 』国立研究開発法人 水産研究・教育機構 2020.2.3)黒潮が蛇行し日本沿岸を離れてしまうと、黒潮と本州南岸の間に下層の冷たい水が湧き上がり、冷水塊が発生します。そのため暖かい水を好むカツオの接岸量が大きく減ってしまうのです。
しかし、黒潮の大蛇行は2017年より継続しています。そのためセオリー通りであれば、2019年も不漁になるはずでした。しかしこの年は、南に蛇行した黒潮から枝分かれした黒潮内側反流が和歌山沖に差し込み、水温が上がるという現象が同時に発生しており、カツオの接岸漁が多くなったものと考えられています。
今年2020年はその反流も弱く、好漁の要因となるものがない状況です。ただ今後、何らかの要因により沿岸域の海水温が上がれば、好漁になる可能性も残されています。和歌山では例年春先にとれる小型のカツオが5月になって水揚げされ始めており、今後に期待するという声も高まっているようです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>