車の汚れや、アレルギーの原因となる可能性あるため、嫌われている「黄砂」。しかし、実は海の魚を育てるという一面があることをご存知でしたか?
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春に飛来する公害「黄砂」
毎年2~5月になると、花粉同様に待機中を舞い、人々を悩ませる存在があります。それは黄砂。中国西部の乾燥地帯であるゴビ砂漠や黄土高原から、偏西風に乗って飛来してくる砂で、これにより西日本を中心にさまざまな被害が発生します。
九州ではひどい日は車の窓ガラスが黄色く染まり、外に洗濯物を干すのもはばかられるほど。また、中国都市部上空を通過する際に様々な有害物質を吸着してしまうこともあり、アレルギーの原因となることも指摘されています。恐ろしいことに、黄砂の飛来が多い日は、飛来しなかった日に比べて救急搬送数や急病患者が増えることも確認されています。黄砂は、海を渡る公害そのものなのです。
黄砂は海洋プランクトンのエサ?
そんな国際的嫌われ者である黄砂ですが、実は意外なところで我々の生活に役立っている事がわかってきています。その中でもユニークなのが「海の豊穣さに寄与している」というもの。
大気中を飛来する黄砂は、湿った空気とぶつかると雨粒の核になり、地表面に落下します。また、直接落下するものもあります。これらのうち、海上に落下したものは海水と混ざり、主要成分であるケイ酸が海水中に溶け出すのですが、このケイ酸は、植物プランクトンである珪藻の餌となるのです。また、黄砂が吸着するアンモニウムイオンや有機物も、プランクトンの餌になります。(田中美穂・高橋和也『黄砂はプランクトンの栄養源? 』2014.9)
さらに、黄砂に豊富に含まれている鉄は、海洋の植物プランクトンの光合成を活性化させる役割を果たしていることもわかっています。これらの作用により、通常は栄養塩が少なくなる岸から遠く離れた沖合でも、植物プランクトンの数が多くなることができます。(武田重信『黄砂が海と気候を変える 』)
中国から飛来する黄砂は、日本に来る前に東シナ海に降り注ぎます。その結果、東シナ海はプランクトンの多い海となり、結果として魚がたくさん穫れる豊饒の海となっているのです。
温暖化&酸性雨対策にも?
この他にも、黄砂が植物プランクトンを増殖させることで、海上での光合成が活発になり、結果として大気中の二酸化炭素が減り、温暖化の抑制につながるという効果も指摘されています。
また、黄砂に含まれる炭酸カルシウムはアルカリ性であるため、酸性雨の雲と黄砂が直接ぶつかることで、地上における酸性雨の影響を軽減させる結果につながっていることもわかっています。
我々ヒトにとっては厄介極まりない存在である黄砂ですが、そのおかげで美味しい魚が食べられ、環境問題も軽減されているのであれば……ちょっとはその存在を見直してあげても、いいのかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>