豊醇な干潟を抱え、たくさんの美味しい貝を育む東京湾。近年になって新たに認識され始めた「ホンビノスガイ」は、大量に獲れて味も良いその貝ですが、諸手を上げて喜べない事情があるんです。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
東京の潮干狩りに「黒船」あり?
春先に楽しめるアクティビティはたくさんありますが、代表的なもののひとつが潮干狩りではないでしょうか。春は海の干満の差が一年で最も大きくなる時期のため、潮干狩りを楽しめる時間が長くなり、最も楽しめる時期なのです。
潮干狩りのターゲットと言えばアサリ、シジミ、ハマグリなどを思い浮かべる人が多いと思いますが、実は関東地方のごく一部の地域においては「第4のターゲット」ともいえる貝が存在し、すっかりなじまれています。「白はまぐり」なんていう通称もあるその貝はしかし、美味で人気もありながらさまざまな問題、裏事情をも抱えた、ちょっと複雑な存在ともいえるのです。
東京湾の“新顔”ホンビノスガイ
この「白はまぐり」、正式和名はホンビノスガイといいます。その洋風な名前から想像がつくかもしれませんが、彼らは外来種で、原産地は北米大陸の東岸とされています(しかし近縁のビノスガイは日本の在来種だったりする)。日本では1998年に船橋の干潟である三番瀬で棲息が確認され、現在では三番瀬を中心に東京湾奥の海域に定着しています。
大きくなると殻長14cmにも及ぶこの貝は、いかにも外来種然とした存在感もあり、はじめは見向きもされていなかったといいます。しかし彼らは水質汚染や低酸素状態に強いという性質があり、毎年青潮が発生し在来の貝が激減するという厳しい東京湾奥の環境においても棲息が可能なうえ、原産地ではクラムチャウダーの材料として好まれているなど味の良さも折り紙付きとあって、徐々にその価値が知られるようになりました。
アサリが激減し、ハマグリが絶滅状態に近い東京湾奥の浅瀬における貴重な潮干狩りターゲットとして好事家に認知されるようになり、やがて市場価値が産まれ、今では漁業権も設定されるようになっています。
現状、我が国で最もポピュラーな食用外来種のひとつだと言えるでしょう。