豊醇な干潟を抱え、たくさんの美味しい貝を育む東京湾。近年になって新たに認識され始めた「ホンビノスガイ」は、大量に獲れて味も良いその貝ですが、諸手を上げて喜べない事情があるんです。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
外来種が「経済種」になる懸念
一方で、このホンビノスガイのように「外来種に経済的価値が生まれる」ことについて、憂慮する声も少なくありません。「外来種の侵入を防止しないと、結果として世界中の海が同じような生物の住処になってしまい、在来種により歴史的に作られてきた各地域固有の生態系が攪乱されてしまう」という指摘が専門機関よりなされています。(風呂田利夫『白肌のヴィーナス「ホンビノス」は水産資源救世種か生態系有害外来種か』海洋政策研究所,2010.2)
それに加えて「外来種に価値が生じることによって、人為的な拡散が行われ、より広範囲の生態系が毀損されてしまう」という懸念もあります。ブラックバスなどがその良い例でしょう。
一方、このホンビノスガイは、上記の通りアサリやハマグリなどの在来種がいなくなってしまったところ、あるいはもともと棲息ができないような環境に定着し、繁殖しています。現時点では在来種への直接的な悪影響は確認されておらず、地域の漁師の生活を支えている存在ということもあって、単純な「悪者扱い」をするのは難しいところもあります。
実は身近な外来種問題
今後このホンビノスガイがいなくなること、あるいは駆除されるというようなことはまずないと言えるでしょう。望ましい望ましくないに関わらず、我々は彼らと共存していかなければならない状況といえます。
兎にも角にも味は良いホンビノスガイ、東京で暮らしていれば必ず出会う存在であると思います。もし出会ったときには、そのバックグラウンドに思いを馳せて、「身近な外来種問題」についてちょっと考えてみるのもいいかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>