高級魚の売り上げ不調もコロナウイルスの影響?原因を考察

高級魚の売り上げ不調もコロナウイルスの影響?原因を考察

新型コロナウイルスの影響が様々な分野に及んでいますが、最近「魚が売れない」というニュースが目につくように思います。原因について考察してみました。

(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース編集部)

アバター画像 TSURINEWS編集部

その他 サカナ研究所

新型コロナウイルスの影響で魚が売れなくなっている?

日に日に深刻さを増している新型コロナウイルスの被害。WHOがパンデミックを認定し、日本でも外出やイベントの自粛が継続されています。東京オリンピックの延期も決まり、経済の停滞が長期化することはほぼ確実となりました。

高級品や贅沢品を中心にモノが売れなくなり、小売業界が悲鳴を上げる中、とくにニュースで取り上げられているのは「魚」。

高級魚の売り上げ不調もコロナウイルスの影響?原因を考察人気の魚種・マグロも売れていない(提供:週刊つりニュース編集部)

タイやマグロ、カニなどの高級魚介の需要が激減してしまい、市場や漁師に大きなダメージを与えていると報道されています。大手小売業者のなかには、大幅値下げのセールを開催して需要を喚起するところも現れました。

さて、その一方で「肉が売れず食肉業界が困惑」といったようなニュースはあまり目にしないような気がします。もちろん需要は減っているのでしょうが、魚介と比べるとそこまで深刻ではないようです。この差は一体どこから産まれているのでしょうか。

魚介の消費形態が変わっている

魚介の需要減については、近年とみに叫ばれている「魚離れ」の影響も考えられ、消費量のデータからは読み取りにくい部分があります。そのため「消費者の魚食に対する意識」という点から考察してみることにしました。

一般社団法人大日本水産会 魚食普及推進センターによる「2019年度水産物消費嗜好動向調査報告書」によると、関連アンケートを実施した際、94%の回答者が「魚料理が好き」と回答しており、まず大前提として「日本人の魚好きは変わっていない」ということが言えます。

一方で生活における「調理に割ける時間」が少なくなっており、そのため魚介を食べようと思って購入する際にも「缶詰」「惣菜」「寿司パック」など、簡単な加工ですぐに食べられる形状のものを選択することが多い、という結果が出ています。

高級魚の売り上げ不調もコロナウイルスの影響?原因を考察缶詰人気は続いている(提供:PhoteAC)

これは近年のサバ缶ブームからも見える傾向で、その対偶として「丸のままの(調理が必要な)魚介の需要は、個人消費においては減っている」ということがいえそうです。

また、近年は健康志向・節約志向の向上により、家庭で調理を行う(内食を選ぶ)人の割合が高くなっていますが、その際に魚介を調理食材に選ぶ傾向があるのは中高年の男性のみで、他の層では概ね肉を選ぶ傾向が強い、という回答結果があります。これも、丸の魚介の需要が少なくなっているという結果につながっていると考えられます。(「男女1000人に聞いた食事・調理・魚食動向」一般社団法人大日本水産会 魚食普及推進センター,2019.9)

高級魚の売り上げ不調もコロナウイルスの影響?原因を考察パックずしの売上も好調だという(提供:PhoteAC)

魚介は食材として考えると歩留まりが悪く、調理加工によって価格が上昇しやすい食材です。加工された魚介が主体となっている個人消費において、高級魚介の需要が増えるということは考えにくく、これらの魚介の販路は外食産業や輸出用などに振り替えられてきたものと思われます。そこにコロナショックによる世界同時不況が直撃した結果、需要減の煽りをまともに受けて市場がだぶつき、価格が暴落したのでしょう。

大衆魚は実は売れ行き好調

ただ、上記の通り「魚介全般の需要が減っている」というわけではありません。外出自粛により外食産業が苦しんでいる一方、内食あるいは中食用食材の需要は増えており、それに伴ってスーパーなど小売店の調理済鮮魚の売れ行きは好調といいます。(『あの大衆魚、新型コロナで脚光 ウニ・マグロ売れずとも』朝日新聞デジタル,2020.3.25)

とくにサバやイワシなどの売れ行きが良いそうで、折からの青魚ブームもプラスに働いているようです。

高級魚の売り上げ不調もコロナウイルスの影響?原因を考察安くて美味しく健康にもいい青魚は庶民の味方(提供:PhoteAC)

魚介に多く含まれる不飽和脂肪酸が免疫力の向上につながることもあり、コロナに負けない健康な体を維持するためには魚食は欠かせないと思います。これまで通り魚介を購入して市場を下支えするとともに、できるだけ高級魚も買って漁師を応援しつつ経済を動かすことが、魚好きにいま求められていのかもしれません。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>