仏教を信仰する地域で広く行われている「放流行事」。歴史があるものも多いですが、昨今は「科学的な反対意見」が目立つようになっています。
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タイで開催の「放流イベント」が炎上
信仰心が強く、様々な仏教行事が行われるタイ王国。そんなタイで先日、とある年中行事に批判が集まり炎上したというニュースがネットで話題になりました。
その行事とは「ヴィシャカブチャデー」というもの。この行事では、タイで最も大きな川のひとつチャオプラヤ川に、数千kgのナマズが放流されます。
生命を大切にすることで功徳を積むことが放流の目的で、同様の行事は世界中で開催されています。そのようなイベントがなぜ炎上してしまったのでしょうか。
外来種のナマズだった
実はこのイベントで放流されるナマズが、同河川に元々生息していない、いわば「外来種のナマズ」だったのです。
魚食性が強く大食漢であるナマズは、ひとたび放流されるとその旺盛な食欲と成長の速さで在来種を駆逐してしまい、生態系に大きな悪影響を与えます。生命を大切にするはずの行事で、在来種の生物たちに大きな被害をもたらすことについて批判が殺到したのが炎上の理由だったのです。
日本では、アメリカナマズという外来種ナマズが利根川水系をはじめとした水域に侵入して大きな被害をもたらしており、「特定外来生物」に指定されて駆除が進められています。チャオプラヤ川でも同様の被害が起こる可能性は高いといえるでしょう。
日本でも過去に同じ例が
タイと同じく仏教の影響を強く受ける我が国でも、放生会(ほうじょうや、ほうじょうえ)などと呼ばれる「放流行事」が全国各地で行われています。そして中にはヴィシャカブチャデーと同様に、「外来種問題」を指摘されてしまったものもあります。
奈良県の世界遺産・興福寺は2017年、日本魚類学会からの指摘を受けて、放生会で放す魚を在来種の「モツゴ」に変更しました。また京都の本能寺では、以前は行事で鴨川に金魚やコイを放流していましたが、これも現在では同河川の在来種であるドジョウやウナギを放つ形に変更されています。
このような形で行事の実施内容が変更されることについては賛否両論あるかと思いますが、たとえ長い歴史を持つ伝統行事であっても、環境保全の観点から見直しが行われていくのは健全なことだと個人的には思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>