食べ物でありながら「紙」や「布」のテクスチャをも持つ海苔。古くから食品とは思えないユニークな利用をされてきた歴史があります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
海苔で作った図鑑?
東北でもっとも海苔養殖の盛んな土地のひとつ・宮城県気仙沼市。160年以上の養殖の歴史を持ちます。
そんな気仙沼で先日、ユニークな「海苔で作った図鑑」が発売され、注目を浴びています。これは、黒い海苔に魚介類の簡単な情報が白い文字でプリントされているというもので、気仙沼を代表する水産物であるカツオ、メカジキ、マンボウ、カキなどの豆知識を楽しむことが出来ます。
白い文字はカルシウムでプリントされており、もちろんそのまま食べることができるそうです。
佐賀には「海苔の名刺」も
さて、今回の図鑑のような「板海苔に文字をプリントした商品」は過去にも販売されています。そしてその中でももっとも話題になったものとして「海苔の名刺」が挙げられます。
ノリの養殖に向いた干満の大きな海・有明海を擁し、日本一の海苔生産量を誇る佐賀県。その中心都市佐賀市で、海苔のPRのために作られたのが「海苔名刺」です。市長や職員、佐賀市にゆかりのある有名人が、海苔で作った食べられる名刺を配布し、佐賀海苔の宣伝を行いました。
名刺サイズの小さな海苔には、役職情報などの細かい文字のほか、ムツゴロウやカササギのような佐賀を代表する生き物の模様までもプリントされており大変精巧な出来だったそうです。
かつては「服になった海苔」も
「プリント」ではありませんが、より古い時代には板海苔が「服」になったことがあります。
島根県の島根半島にある十六島(うっぷるい)という地区を中心に、土着の種であるウップルイノリというノリが発生します。内湾の静かなところで育つスサビノリという種で作られた一般的な海苔と比べると、日本海の荒波に揉まれて育つウップルイノリで作られる「十六島海苔」は分厚く丈夫で色が黒く、風味が強い高級品です。
江戸時代、当地にあった松江藩藩主松平治郷が、この十六島海苔で作った羽織を着て江戸城にのぼり、将軍の前でそれをちぎって食べ驚かせた、というエピソードが残っています。
このように海苔は食べ物でありながらも、紙や布の代わりになるという大変ユニークな食べ物なのだといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>