日本三大珍味のひとつとして知られるカラスミ。ボラの卵巣で作られているのは有名ですが、他の魚の卵巣を用いないのはなぜでしょうか。
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瀬戸内の離島でカラスミ作りが最盛期
誰もが知る高級珍味・カラスミ。このカラスミ製造で最も大切な工程である「天日干し」の作業が、いま最盛期を迎えています。
カラスミの天日干しが行われているのは、姫路市の沖合に浮かぶ家島諸島にある坊勢島。周囲に広がる播磨灘で捕れたボラの卵巣を塩漬けにし、軽く形を整えてから干し上げます。
カラスミの産地といえば長崎が有名ですが、坊勢島のカラスミも品質の良さに定評があります。これは、播磨灘で捕れるボラが産卵のため太平洋から瀬戸内海に入ってくるものであるために臭みが少なく、粒のきめ細かさに定評があるからだといいます。
卵巣を採るためのボラの漁期は秋の1カ月のみと短いですが、昨年は豊漁だったそう。早春の日差しの下、まだ冷たさの残る海風でじっくりと熟成されたカラスミは、地元の漁協で100gあたり1000円台から販売されています。(『高級珍味カラスミ作り最盛期、港に並ぶつややかな琥珀色 兵庫・姫路』神戸新聞 2021.2.24)
カラスミとはなにか
ウニ、コノワタと並び日本三大珍味に数えられるカラスミですが、その素性については意外と知られていないようにも思います。前記の通り、我が国におけるカラスミは基本的には「塩漬けのボラの真子を乾燥させたもの」です。
干し上げた卵巣の形状が、中国より伝来した習字用の墨「唐墨」に似ていたためこの名がつけられました。我が国には、安土桃山時代に中国(明)から長崎に伝来したといわれますが、世界中に似た食材があり、特にイタリアの「ボッタルガ」は日本でも有名です。
なぜ「ボラ」の卵?
さて、ここでやや不思議に思うのは「なぜ、ボラはカラスミになると高級品になるの?」ということ。ボラの成魚は味こそ悪くないものの、決して高級とは言えず、地域によっては漁獲されても廃棄されてしまうことも多いです。なぜ、その卵巣だけがこれほどに珍重されるのでしょうか。
実は、日本以外の国では、カラスミはボラ以外の魚で作られることが多いです。日本でも、例えばサワラやマグロのような卵巣の大きい高級魚で作られることがありますが、ボラのものと比べると安価です。この理由は含まれる成分にあります。
ボラの卵のカラスミは、他の魚の卵巣で作ったものにはない「ネットリとした質感」や「味のコク」があります。これは、浮遊性であるボラの卵には浮力をもたらすために脂肪分が多く含まれているためだと言われています。完成品のカラスミの何は、30~35%もの脂肪分が含まれているそうです。
ちなみにその脂の多くは「ワックスエステル」という人体では消化できないタイプのものです。ただワックスエステル自体に毒性はなく、また珍味であるカラスミは一度に少量しか食べないので、体調を崩すような危険性はありません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>