深海に棲む魚たちには「異形」のものがたくさんありますが、その中には微妙に「怒られそうな」名前のものがあります。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
コードギリギリの魚名
去る2007年、日本周辺に棲息する魚たちの和名が一斉に変更されるという出来事がありました。変更されたものは「イザリウオ」「メクラウナギ」などいくつかの魚名ならびにグループ名で、いずれも「差別用語」とされるものが含まれていました。
実は、魚の名前には下ネタに由来するワードや、現代の基準で言えば「コンプライアンス違反」になりそうなものがかつてはたくさんありました。今では上記のような名前変更もあり標準和名にそのようなものは少なくなっていますが、地方名にはそれこそ山のように残っています。
異様な見た目の「トウジン」
そのような「今なら怒られちゃう」かもしれない和名を残している魚に「トウジン」がいます。トウジンは深海性のタラの一種で、いかにも深海魚らしい異様な見た目をしています。
特に目立つのがその吻(ふん)。体長に不相応なほど鋭く長く尖り、触ると痛く感じるほどです。この長い吻を、ヨーロッパ系民族の大きな鼻になぞらえて「唐人(とうじん)」と読んだのがその和名の由来とされています。
唐人という言葉は現代で言う「外人」に近いニュアンス。メディアでガイジンというと怒られてしまう現代では、トウジンという和名もコンプライアンス違反になってしまうかもしれません。
実は深海魚屈指の食味
このトウジンですが、主要漁獲地のひとつである静岡県沼津でも、かつては箸にも棒にもかからない存在とされていました。専門の漁もなく、タカアシガニ漁などでで混獲されたものが自家消費される程度だったといいます。
しかし一方で、漁師さんを中心に味の良さも知られており、ある時地元の料理屋で提供するようになってからは、その知名度が上がっていきました。
水分が多いものの強い弾力のある身で、新鮮であれば刺身で美味しく食べることが出来ます。さらに大きく肥大する肝は脂が強く濃厚なコクが有り、魚類屈指の美味しさと言われることも。
今では沼津市における観光資材の一つとなっており、マイナーな深海魚の中では異例とも言える出世を果たした存在なのです。
さらに歩留まりが悪いのが玉に瑕だったりしますが、その味は良いのでもし店頭で見かけたらぜひチャレンジしてみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>