一般的に人生最大の買い物と言えば「マイホーム」。一方、釣り人の夢の買い物といえば「マイシップ」でなかろうか。そこで、船はどこで、どうやって造るのか。なぜマイホーム並みの価格なのか。「釣り記者」であり、たった1年ではあるが漁師経験もある筆者が紹介しよう。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWS編集部 四家)
なぜ高いのか?
新造船は数千万円~1億円と、いわゆる注文住宅と同等かそれ以上の金額になる。需要と供給の関係もあるが、設計図から木型を起こし、職人が1隻ずつ作ることがその主な理由。
ほとんどの工程が手作業で、丁寧に素材を削ったり貼り付けたりと時間も掛かる。また、エンジンだけでも1000万円前後と高価。魚群探知機やレーダーなどは最低数十万円と機器類も高くつく。
住宅であれば、自由に設計できると言っても、おおよその枠組みは決まっていることがほとんどだ。
船の場合は、家と違い乗り物なので「丈夫さを選ぶと燃費やスピードが落ちる」「軽さやスピードを選ぶと安定性が下がる」といったように、何かを選択すれば何かが犠牲になる。
つまりは、航行する海域に合わせた特性をしっかりと検討する必要がある。こうしたこだわりを反映できる点も価格が高騰する理由の一つだ。
買って終わりではない
家の場合は築年数によって、外壁や屋根の交換、防水処理などリフォームを行うが、船も買ったら終わりというわけにはいかない。
海は塩害や紫外線など機器には最悪の環境であり、港に駐艇していれば貝やフジツボがついて航行時の燃費や速度が落ちる。年1回は上架(陸に上げること)をして貝殻などを削り、再塗装やパーツの交換などメンテナンスをする。
ほかにも車と同じようにエンジンオイル、フィルター、バッテリーなどを交換。また削れたFRPを上貼りしたり金属パーツの交換をしたりと、住宅以上にメンテナンスが必要になる。
これらの作業は船長自らが行うが、バッテリーは20㎏以上、エンジンオイルは20L以上と重量があり、交換するのも大仕事だ。
高くても長持ち
船自体の寿命は長く、30年以上使われることが大半。寿命が長いゆえに中古市場が活発で、中古艇を購入し改造する人も多くいる。新艇より1/10~半分と割安だが、修理や改造費にお金が掛かる。
また、自分が欲しいと思う船に巡り合うことはなかなかないので、妥協との戦いになるようだ。お金をとるか、こだわりを取るか。家も車も船も、結局のところは同じだ。
でもエンジンは消耗品
船体は長く使えても、1000万円ほどするエンジンは10年前後で交換になる。エンジンを交換するには、船の一部を切断しないと入らないことが多く、クレーンを用いて交換するため、時間がかかる。
10年前後となれば、住宅では外壁工事など最初の簡易的なリフォームはあると思うが、それに比べると時間もお金もかかり、とても大掛かりな修理となる。
船に乗って沖釣りを楽しもう
説明してきた通り、釣り船は超高級な乗り物だ。そして、マイホームに匹敵する、もしくはそれ以上の思いが詰まった、言わば船長のこだわりの作品だ。そんな作品に乗らせてもらって釣りを楽しませてくれるのであれば、半日で5000~6000円、1日で1万円程度の釣り船の乗船料も安く感じないだろうか。
まだ釣りをしたことがない人には、ぜひ船釣りをお勧めする。船酔いさえクリアすれば、こだわりの作品(船)の上で、釣りを存分に楽しめる。
最後に釣り記者として一言。乗船取材をしていると、船体にタバコを押し付けて火を消していたり、ワザと傷をつけるような人がいる。そのような行動はやめよう。釣り人の皆さんも、船長のこだわりを感じながら、釣りを楽しもう。
<四家 匠 /TSURINEWS編>