「臭くてマズい」は間違い? イスズミに美味しい別種『ノトイスズミ』がいることが判明

「臭くてマズい」は間違い? イスズミに美味しい別種『ノトイスズミ』がいることが判明

あまりに臭くて嫌われるイスズミ。しかし最近「美味しい別種」がいることが知られ始めています。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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不味いと言われるイスズミ

磯釣りで1番のターゲットといえばメジナもしくはクロメジナ。餌を食べさせる難しさや、針にかけたあとの引きの強さが数多の釣り人を虜にしてきました。

そんなメジナにそっくりな魚に「イスズミ」というものがいます。魚に詳しくなければ判別できなくても不思議ではないほど似ており、針にかかった時はメジナ以上に力強い引きを見せるにも関わらず、イスズミはほとんどの釣り人から大いに嫌われています。

「臭くてマズい」は間違い? イスズミに美味しい別種『ノトイスズミ』がいることが判明イスズミ(提供:PhotoAC)

その理由はズバリ「臭い」から。釣り上げるとショックで糞を撒き散らすのですが、その糞やそれが詰まった内臓、さらには体表や(個体によっては)身に至るまで強い磯臭さがあります。そのために食味評価も芳しくなく、多くの書籍やウェブサイトで「不味い魚」とされています。

実は「美味しい種類」があった

しかしそんなイスズミのなかに、実は「美味しい種類」があるのでは? という説がにわかに注目されています。

というのも、かつてイスズミとされていた種が比較的最近「イスズミ」と「ノトイスズミ」という2種に再分類されたのですが、この後者の方は美味しいという釣り人が少なくないのです。

「臭くてマズい」は間違い? イスズミに美味しい別種『ノトイスズミ』がいることが判明ノトイスズミ(提供:茸本朗)

筆者も先日ノトイスズミを手に入れたので食べてみましたが、一般的なイスズミに感じられる「腐った海藻」「三角コーナーに放置された生ゴミ」のような香りはなく、多少わかめや昆布のような香りを伴っているのみで不快感は全くありませんでした。身質もさっぱりと素直で、弾力のある皮の食感と相まってなかなか美味しいと感じました。

イスズミは美味しくないというイメージが強い一方で、美味しい魚として珍重する人や地域もあることが広く知られています。これについて、これまでは「イスズミの食性の違いによる臭みの差」であったり「伝統的に食べる地域では磯臭さが気にされていない」といった説で説明されてきましたが、もしかすると美味しいとされているものがノトイスズミであった可能性もあるかもしれません。

今後は一般的な食材に?

さてそんなイスズミ、現時点ではおそらく、釣り人と漁師以外でその名前を知る人は多くないでしょう。しかしもしかすると今後、よりポピュラーな存在となるかもしれません。

我が国では一般的に、磯臭さを持つことがある磯魚をあまり好んで食べてはきませんでした。理由はもちろん、タイやヒラメ、アジ、サバといった臭くなくて美味しい魚がたくさんいるからですが、数年来続く日本近海の海洋温暖化によってこれらの魚の水揚げは減少傾向にあります。

「臭くてマズい」は間違い? イスズミに美味しい別種『ノトイスズミ』がいることが判明イスズミ料理(提供:茸本朗)

しかしイスズミやアイゴなどの磯魚にとっては海洋温暖化は分布域を拡げる最高のチャンスであり、いずれもここ数年相当な勢いで分布を北上させ、個体数も増やしています。そのため今は未利用魚に過ぎませんが、今後はこれらの魚を食卓に活用しようという動きが出てくる可能性は高いと思われます。

魚食文化を愛する我が国では、このような磯臭い魚も美味しく食べる技術が存在します。そのため今後、食べ方の紹介とともにスーパーなどの鮮魚コーナーでこれらの魚が見られるようになっても不思議はないと思います。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>