みなさんは「まつばがに」と聞いてどのようなカニを思い浮かべますでしょうか。多くの方が、山陰地方で水揚げされる高価なズワイガニを思い浮かべるのではないでしょうか。しかしながら、日本において「まつばがに」という名前で呼ばれているカニには2種類がいます。今回はこの2種についてご紹介します。
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「松葉がに」とは
「まつばがに」と聞いて多くの方がまず最初に思い浮かべるのはケセンガニ科のズワイガニ Chionoecetes opilio(Fabricius, 1788)のことです。このカニは主に日本海岸でよく賞味されており、福井県では「越前がに」と呼ばれますが、山陰地方では「松葉がに」などと呼称されています。
この「松葉がに」という名前は細長い歩脚から「松」のようであるとか、筋肉繊維が細長く裂けるためであるなどという説があります。
なお、標準和名ズワイガニの由来ははっきりしていませんが、「すわえ(木の枝や幹からのびた細い枝のこと)」にちなむという説があります。ただし、漢字では「頭矮蟹」と書きます。
分布域は日本海沿岸、東北地方以北の太平洋岸、海外では朝鮮半島、北太平洋、ベーリング海、北極海、グリーンランドから北米メイン州までの大西洋沿岸にまでおよび、寒帯及び亜寒帯性のカニといえます。
また深海性で、浅いところでは50mの記録もありますが、漁場は180~360mとなっているようです。
「マツバガニ」とは
「マツバガニ」という、種の標準和名をもつカニは、オウギガニ科の一種 Hypothalassia armata(De Haan, 1835)です。名前の由来は、見てお分かりのように鉗脚や歩脚に大きな鋭い棘が多数発達していることからつけられています。
歩脚は短いですが、ズワイガニには見られない棘も多数生えています。また、鉗脚や歩脚には細い毛のようなものが生えており、これも特徴的です。
ズワイガニとは生息環境もずいぶん異なり、水深540mからの記録もあるようですが、普段は30~120mほどと比較的浅い海域に生息しています。
分布域もズワイガニは北方性であるのに対し、マツバガニはインド~西太平洋の熱帯から温帯に見られ、日本においては相模湾以南の太平洋岸、長崎県、種子島に見られます。
生命力は強く、上記写真のマツバガニは長崎市の鮮魚店で購入したもので、発泡スチロールに氷を入れて車で運搬し20時間以上かけて茨城県の自宅に戻ったときにもまだ元気でした。
マツバガニは食べられる?
「松葉ガニ」は種でいえばズワイガニということで当然食用になります。一方で標準和名マツバガニのほうも食用のカニとして知られています。
マツバガニは基本的に狙って漁獲されず、イセエビなどの漁などで混獲されるものと思われ、あまり多くは漁獲されないカニです。
しかし大型のカニであることから、漁獲されたら市場に出ることもあります。歩脚や鉗脚が大きく、特に鉗脚は身がつまっていて美味しいものです。
歩脚はズワイガニよりも短くその分身も少なめ、ただしこちらも味は美味でした。また、いわゆる「かにみそ」も食用にすることができます。
オウギガニの仲間は食べないほうがよい
マツバガニは先述のように、オウギガニの仲間とされます。しかしこのオウギガニの仲間には、いくつか有名な毒化しやすい種が含まれており、特に奄美大島以南の琉球列島ではウモレオウギガニなどによる死亡例を含む中毒事例が多く知られています。ウモレオウギガニは比較的大きくなり、味噌汁にいれるのに適したサイズとも言え、中毒例が多いようです。
ほかにもスベスベマンジュウガニや、ツブヒラアシオウギガニなども毒があり、琉球列島やフィリピンなどで死亡例があるとされます。
またオウギガニの仲間は種も多く、「毒化しやすい(有毒)カニ」と「無毒のカニ」の見分けがつきにくいということもあり、1965年4月22日には奄美大島で行商人から購入した「瀬ガニ」を食べて2名が中毒した例もあります。これもウモレオウギガニとされています。
カニ中毒を防ぐ1番簡単な方法は「知らないカニ」を食べないことです。特にオウギガニの仲間は海底に潜むものをなんでも食べてしまい、毒化することが多いようです。マツバガニ以外のオウギガニの仲間(ケブカガニなども含む)は食べないように注意しましょう。
参考文献
・青木淳一・奥谷喬司・松浦啓一編著(2002)、虫の名、貝の名、魚の名 和名にまつわる話題、東海大学出版会
・橋本芳郎(1977)、魚介類の毒、学会出版センター
・三宅貞祥(1983)、原色大型甲殻類図鑑(II)、保育社
・野口玉雄(1996)、フグはなぜ毒をもつのか 海洋生物の不思議、日本放送出版協会
・Sea Life Base
<椎名まさと/サカナトライター>