2023年、北海道においてさまざまな熱帯性海水魚が確認されました。北海道のアクアリストにとっては朗報かもしれませんが、大きな問題があります。今回は北海道に出現した熱帯性海水魚の概要と、2023年に北海道で多くの熱帯性海水魚が確認された理由、そしてそれに伴う影響をなどについて、2024年に出た報文を紹介するとともに考えてみたいと思います。
(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)
クロハギ属魚類 Acanthrus
クロハギ属で北海道から確認されているのはヒラニザ A.mata・ナガニザ A.nigrofuscus・ニセカンランハギ A.dussumieri で、いずれも北海道臼尻から幼魚の記録があります。
ニザダイ科のクロハギ属の魚もテングハギ属の幼魚と同様に卵や仔稚魚(アクロヌルス期と呼ばれる)が黒潮にのって北上し分布が広域に及ぶ傾向があります。
関東でもシマハギやクロハギの幼魚はほぼ毎年見られ、これらの魚は東太平洋にも出現します。
ウスバハギ属魚類 Aluterus
ウスバハギ属のウスバハギ A.monoceros・ソウシハギ A.scriptus はともに南方性のカワハギ科魚類ですが、幼魚が流れ藻につくため広い範囲に見られる種といえます。日本の温帯海域でもよく漁獲されており、分布が広いものといえます。
ただし、あまりにも水温が低いと、弱ってしまい、冬季に日本海沿岸の砂浜などに打ち上げられることもあります。
ウスバハギはカワハギやウマヅラハギ同様に食用魚として利用されますが、ソウシハギの内臓は毒化することもあります。南方ではソウシハギも食用としますが、少なくとも北海道では利用されていないと思われます。
キヘリモンガラ Pseudobalistes flavimarginatus
キヘリモンガラの卵は岩に産み付けられ、親はその卵を保護する習性があります。卵に危険が迫ると親はダイバーにも向かっていきます。そのため卵の状態で分散されるということはほとんどないのですが、このキヘリモンガラは幼魚が流れ藻など浮遊物につくことがあり、本州中部沿岸でもその姿を見ることができ、北海道近海でも小樽で採集例があります。
ほか、北海道で見られるモンガラカワハギ科魚類としては、アミモンガラとメガネハギがいますが、とくに前者は流れ藻についているところがよく見られ、流れ藻とともに北日本にもやってきます。
しかしながら冬の寒さには耐えられないため、晩秋から冬にかけて浜辺に弱った個体が打ち上げられることも多くあります。
単純に喜ぶべきではない
熱帯性の海水魚が北海道にやってきたら北海道在住のアクアリストは喜んでしまいがちですが、その裏には海流の変化があります。
上記の魚種のうち複数種が北海道臼尻で採集された2023年は、例年ならば房総半島沖で日本周辺から離れる黒潮続流が三陸沖にまで到達したとされており、それによりこれらの魚の多くがもたらされた可能性があります。2023年の臼尻近辺の水温は7月~9月に、この年を除く例年(1970年以降)の平均水温と比較し、3.1~3.3℃高かったとされます。
海水温が例年より極端に上がったり、下がったりすると壊滅的な結果がもたらされることがあります。極端な例をあげるならばアメリカ東海岸の食用魚タイルフィッシュ(アマダイ科の魚)は1882年に大量死がおこり、この魚を獲る漁業は壊滅的な打撃を受け、個体数の回復には長い時間を要しました。この大量死の原因については海水温の極端な変動(低下)が原因とされています。
北海道の主要な漁業対象種についても、真逆でありますが同じようなことがいえ、タイルフィッシュとは逆に高水温に弱い生物も多数おり、地球温暖化の問題ともあわせて、単純に喜べるような事象ではないといえます。
参考文献
尼岡邦夫・仲谷一宏・矢部 衞、(2020)、北海道の魚類 全種図鑑、北海道新聞社、590pp
橋本芳郎(1977)、魚介類の毒、学会出版センター
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冨森祐樹・荻野星・内田喜隆・甲斐嘉晃・松沼瑞樹(2020)東シナ海北部および日本海から得られたヒメテングハギ,オニテングハギおよびナガテングハギモドキ(ニザダイ科)の記録、魚類学雑誌 67(1):85?93
Ueno T. and K. Abe. 1968. On Rare or Newly Found Fishes From the Waters of Hokkaido(Ⅲ).魚類学雑誌.15(1); 36-37
<椎名まさと/サカナトライター>