「サカナ好きは夢中になること間違いなし!」海中SFの代表的な小説『海底二万里』を語る

「サカナ好きは夢中になること間違いなし!」海中SFの代表的な小説『海底二万里』を語る

『海底二万里』は、1870年にフランスの作家ジュール・ヴェルヌが発表した海洋冒険小説です。多くの人がタイトルを知っている一方、実際に読んだ人は少ないかもしれません。この小説は単なる冒険ものを超え、未来を考えるための教科書とも言える古典SFです。今回は『海底二万里』の内容紹介とともに、未来への考察を行います。

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(アイキャッチ画像提供:みのり)

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サカナト編集部

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『海底二万里』とは

『海底二万里』(仏:Vingt mille lieues sous les mers)は、フランスの小説家ジュール・ヴェルヌが1870年に発表した冒険小説です。

「1886年、つぎつぎと起こる海難事故。パリ科学博物館のアロナクス教授はイッカクのような巨大なクジラ類の仕業という仮説を立て、その謎を解明すべく助手のコンセイユ、銛打ちのネッドと共に太平洋に向かったが、彼らを待ち受けていたのはイッカクではなく、謎の人物ネモ船長が指揮する潜水艦ノーチラス号だった! 彼らは捕虜としてネモとその仲間とともに海中の旅をすることになる……」というのがこの物語のあらすじです。

東京ディズニーシーにあるアトラクション「海底二万マイル」の優しいネモ船長を知っている人は、原作における彼の性格とのギャップにビックリするはずです。全く温厚ではなく、むしろ各所で凶暴さを剥き出しにしています。その理由は……ぜひ原作を読んで確かめてみてください。

魚好き・生き物好きの方なら面白くてあっという間に読み終わると思います。

精密な水族描写と未来の乗り物

この小説には博物学的な要素がこれでもかと出てきます。そして、そのどれもが非常に精密かつ正確に描かれています。

物語の大筋とは無関係でも、かなりの文量を海洋生物・博物学の要素に割いており、魚好き・生き物好きの皆さんにはたまらない内容となっています。

「サカナ好きは夢中になること間違いなし!」海中SFの代表的な小説『海底二万里』を語る潜水艦イメージ(提供:PhotoAC)

また本作が発表された頃は、まだ作中に登場するノーチラス号のような電機駆動の潜水艦は存在しておらず、実際に開発されたのは本作発表の約20年後でした。

今よりも海の中が得体の知れない世界であった人々にとって、『海底二万里』のノーチラス号やそこから見える海中世界はまさに未来世界そのものだったのです。

当時はこうした博物学や水族への関心も高かったことから、なおさら本作は血沸き肉躍る物語だったことでしょう。

実際に原作者のヴェルヌは本作を執筆するにあたり、1867年パリ万国博覧会に設置された水族館や電気に関する展示からインスピレーションを受けたとされています(溝井祐一[2018]、水族館の文化史―ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界、勉誠出版)。

SFの醍醐味

こうした未来の乗り物や描写こそまさにSFと言えますが、私の思うSFの醍醐味とはこうした創作物から実際に未来予測や考察を行うことができるという点です。

本作の中で、主人公であるアロナクス教授が「ラッコという生き物は近い将来絶滅してしまうだろう」と考察するシーンが出てきます。

「サカナ好きは夢中になること間違いなし!」海中SFの代表的な小説『海底二万里』を語るラッコ(提供:PhotoAC)

皆さんもお気づきの通り、この考察は現実とそうかけ離れてはいません。実際には人々の努力によりラッコは徐々に個体数を増やしていますが、もう少し遅れていたらアロナクス教授の言う通り、ラッコは本当に絶滅していたかもしれません。

ネタバレ回避のため多くは触れませんが、ここまでの説明の通り、ノーチラス号のような“未来の乗り物”も今は存在しますし、人種問題や戦争などの考え方も非常に先駆的です。100年以上前の小説を通して海洋環境の在り方や、それらに対する人々の在り方も見つめ直すことができるのです。

SFを通して未来を考える

『海底二万里』に限らずSF作品のすごいところは、こうした未来予測を行い、この先に待ち受けるであろう危機をどう乗り越えるかを考察できること、また様々な価値観・可能性を広げられることだと思います。

作者が本気で考えたSF考証と、そのSFが現実となった場合の価値観の変化・時代の変わり方、これらの考察力は凄まじいものがあります。

ただの創作物と侮るなかれ、全サカナ好きを虜にし、多くの人々の教科書にも成り得る『海底二万里』をぜひ一度手に取ってみてください。

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<みのり/サカナトライター>