みなさんは海でトビウオを見たことがありますか?「誰かに見られてる……」ボートで海を移動中に何かが並走しているのを感じ、それがトビウオだと気づきました。それが私とトビウオの初めての出会いです。「トビウオってこんなに速く飛ぶの!?」と驚いた記憶があります。今回は海のグライダー「トビウオ」についてご紹介します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
トビウオの生態
トビウオはダツ目トビウオ科の海水魚の総称。トビウオは日本列島周辺に広く生息していますが季節回遊魚の一種であり、季節によって生息域を移動します。
全長は約35センチまで大きくなり、細長い筒形をしています。体の大きさの割に目が大きく、かわいらしい顔をしてるんですよ。
一番の特徴は胸ビレや腹ビレがとても大きいことです。これらのヒレを羽のように使って海面を飛びます。そのような特徴からか、魚は1匹、2匹と数えられますが、トビウオは1羽、2羽と数えられることがあるようです。
また、トビウオには胃がなく、腸の長さも短いです。食べたものはすぐ腸で消化され、排便します。脂肪分も少ないため、体が軽く飛びやすいよう進化した体の構造になっています。
島根県の「県の魚」に指定
島根県では、県の魚に指定されています。これは当時の島根県がトビウオの漁獲量が全国1位で県民になじみが深く、さらに一般公募で応募総数の半数以上を占めたことが理由だそうです(島根県のシンボルー島根県)。
トビウオの飛び方
トビウオはどうやって飛んでいるのでしょうか?
羽のようなヒレを持っていますが、鳥のようにパタパタとヒレを動かして飛んでいるのではありません。尾びれを使って強力な推進力を得て助走をつけた後水面から飛び出し、大きな胸ビレと腹ビレを使って滑空しているのです。その姿はまさに海のグライダー。
また、滑空中に着水しそうなったら尾ビレで水面をたたき、再度飛び立つこともできます。
飛行距離は、一般的には100~300m程度と言われています。大型種になるほど飛距離も伸び、600mほど飛ぶこともできるそうです。空中滑走時の速度は時速70キロに達することもあり、冒頭に述べた「ボートと並走していた」ということが嘘ではないとわかるでしょう。
2019年にはNHKクルーが撮影したトビウオの映像が最長飛行としてギネス世界記録に認定されました。その飛行時間は45秒もあったそうです。
そもそもトビウオはなぜ飛ぶのか、気になりますよね。“船の音に驚いたときに飛ぶ”という説もあるそうですが、カツオやマグロ、シイラなどの“天敵から逃げるときに飛ぶ”説が有力と言われています。
栄養たっぷりのトビウオ
トビウオの旬は夏で、まさにこれからです。
その身は低脂質で高たんぱく、ビタミンEが豊富です。鮮度のよい状態で刺身として食べるほか、焼き魚にしてもおいしく食べることができます。その味はさっぱりとした上品な味わいと表現されることが多いです。
九州ではトビウオを「アゴ」と呼び、アゴダシが有名です。日本三大うどんの長崎県の「五島うどん」のダシにはあごだしが使われているほか、煮物やおでんにも使われます。あっさりとしていてとてもおいしいのでぜひ味わってみてください。
また、八丈島名物のくさやにはトビウオが使われることもあるそう。匂い控えめで食べやすいそうです。
「とびっこ」はトビウオの卵
また、トビウオはその身だけでなく卵にも栄養があります。スーパーなどで見かける「とびっこ」はトビウオの卵。プチプチと弾けるような食感が楽しいですよね。
とびっこにはミネラルとビタミンを特に豊富に含んでいます。カロリーもいくらに比べて低く、アルコールを分解する作用もあるのでおつまみにもおすすめです。
飛ぶために体が進化した魚、トビウオの恩恵を私たちは食で楽しむことができます。ぜひ一度この機会にこれからが旬のトビウオを味わってみてはいかがでしょうか。
<keiko/サカナトライター>