クロシビカマスは標準和名に「カマス」とついていますが、実際にはカマス科とは縁の遠い魚です。この魚は全身真っ黒で「すみやき」などという名前でもよばれており、産地によっては重要な食用魚ですが、ある理由から食用とするのには工夫が必要です。
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クロシビカマスとは
クロシビカマス(学名 Promethichthys prometheus)はスズキ目・サバ亜目(またはサバ目)・クロタチカマス科・クロシビカマス属の深海魚です。
背鰭は2基で、基底が細長く17~19棘ある第1背鰭と、基底が短く1棘と18~20軟条ある第2背鰭からなり、背鰭と臀鰭後方には小離鰭があります。腹鰭は非常に小さく痕跡的です。
側線は体側中央を走る1本のみで胸鰭上方で大きく湾曲しています。
大きいものでは80cmを超えますが、国内では標準体長で40cmくらいのものが多いようです。分布域は広く、インド~太平洋、大西洋の暖海域に広く見られます。
名前に「カマス」とつくけどカマスとは関係ない
クロシビカマスは名前に「カマス」とついているのですが、カマス科とは異なるグループの魚です。
カマス科の魚とクロシビカマスの見分けは簡単で、クロシビカマスは第1背鰭が長く、カマス科の魚は第1背鰭が短いので容易に見分けられます。
クロタチカマス科もカマス科も従来はスズキ目の中の、サバ科などを含む「サバ亜目」に含まれていました。例えば中坊徹次編『日本産魚類検索 全種の同定 第三版』(東海大学出版会、2013年) などです。
しかしながら最近は、クロタチカマス科の魚はサバ科などと近縁とされるものの、J.Nelsonほかの「Fishes of the world Fifth Edition」(John Wiley & Sons, Inc. 2016年) の中では、カマス科の魚はカジキなどに近いとされており、カマス科、メカジキ科、マカジキ科の3科による目Istiophoriformesを構成するとされます。
クロシビカマスによく似た魚
クロシビカマス属は1属1種ですが、このクロシビカマスによく似たものに「カゴカマス」(学名 Rexea prometheoides)というのがいます。
この2種を見分けるのには側線を見ての見分けが容易です。
クロシビカマスでは体側中央に1本の側線が入るのみであるのに対し、カゴカマスでは背鰭下方を走る側線(写真の赤い矢印)があり、そこから側線が分岐、分岐した側線は体側中央を走ります(写真の黄色い矢印)。
なおカゴカマスも腹鰭は退化的です。
このほかナガタチカマスという魚もクロシビカマスによく似ているのですが、ナガタチカマスは小さいものの明瞭な腹鰭を持っているため、クロシビカマスとは容易に見分けることができます。
また体形もナガタチカマスのほうがクロシビカマスと比べると細長いです。
なお、ナガタチカマスも側線は2つ走っています。1本は背鰭のすぐ下あたり、2本目は体側中央付近を走ります。
深海魚釣りとクロシビカマス
深海の釣りではクロシビカマスはよく釣れる魚です。
しかし非常に鋭く強い歯を持っているため、取り扱い注意なのはもちろんのこと、鋭い歯によって仕掛けが切られてしまうことがあります。
そのため「なわきり」と呼ばれることもあり、釣り人からはあまり歓迎されません。深海釣りですと、防波堤からの釣りと比べると、仕掛けも高額になる傾向がありますので……。
ですが非常に美味しい魚ですので、仕掛けが切られず釣りあげることができれば嬉しい魚です。
成魚は主に水深300m以深の場所に生息していますが、幼魚は比較的浅いところでも見られ、定置網などで漁獲されることがあります。
クロシビカマスを食する
クロシビカマスは食用魚として利用されてきました。神奈川県では「すみやき」、和歌山県では「よろり」などと呼ばれる魚、といえばお馴染みでしょう。
写真はクロシビカマスを使った料理で、左はお刺身、右は塩焼。クロタチカマス科の魚は骨の入り方が独特なので、上手に身をそぐにはそれなりの技術が必要になります。
しかしながらその技術を磨く価値はある程の美味しさです。皆様もぜひ挑戦してみてください。
参考文献
上野輝彌・松浦啓一・藤井英一編.1983. スリナム・ギアナ沖の魚類.海洋水産資源開発センター,東京.519pp.
日本魚類学会編.1981.日本産魚名大辞典.三省堂.東京.834pp.
(サカナトライター:椎名まさと)