初夏はウニが美味しい季節で、5月下旬~8月上旬はムラサキウニ、6月~7月はバフンウニが特に美味しい。ウニは寿司ネタや丼、パスタなどで楽しまれているが、その外観は黒っぽくトゲだらけで独特の姿をしている。特に、ウニの口の位置を知っている人は少ないだろう。今回は、寿司好きの日本人が意外と知らないウニの口について紹介する。
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ウニの口はどこにある?
ウニの口の場所は腹側にある。といっても、ウニの口の位置を知らない人はその腹がどこにあるかわからない人がほとんどだろう。
種類にもよるが、ウニの体はトゲを除くと饅頭のような形をしている。すなわち、ふっくらしている面と生きているときは下向きになっている平坦な面がある。ウニの腹側はこのうちの後者にあるのだ。
ウニをひっくり返すと平坦な腹の真ん中に穴が開いている。ここがウニの口である。
ウニの口は「アリストテレスの提灯」?
ウニの口にナイフを入れ、殻を剥くと、口の部分から奇妙な構造物が現れる。これは口器であり、食べ物を咀嚼する部分である。
古代ギリシアの学者、アリストテレスはその外見を「始めと終わりは連続的であるが、外見は連続的ではなく、周りに皮の張っていない提灯に似ている」と述べた。このことから、後世、ウニの口は「アリストテレスの提灯」と呼ばれるようになった。
ただし、日本においては大正時代に動物学者である谷津直秀がこの訳語に異論を唱えている。というのも、日本において提灯といえばいわゆる和提灯であり、ウニの口器のかたちには全く似ておらず伝わりにくい、というのだ。谷津は代わりになる表現として「アリストテレスの街灯」を提案している。
レトロな街の街灯を想像してみてほしい。「提灯」という表現よりは、なるほどウニの口の形に近い。
ウニの噛む力
ウニは大食漢である。ウニの主食は藻類や海藻であるが、あまりにも食べるので、ウニの多い海域では海藻がなかなか育たず問題になることも多い。
ウニは岩の上についている藻類を、前述の「アリストテレスの提灯」に含まれる硬い歯で噛みちぎる。
その噛む力の強さが容易にわかるエピソードがある。水族館などでは、ウニを飼育する際はアクリルの水槽で飼ってはいけない、と言われている。なぜならアクリルは柔らかいため、ウニが水槽の壁面を齧り続けるとどんどんすり減ってしまい、透明度が失われてしまう、というわけだ。そのため、ウニを飼育する水槽は硬いガラス製のものを用いなければならない。
ウニの、黒いトゲだらけのよくわからない体には恐るべきパワーが秘められているのである。寿司屋でウニを注文する際は、そんなことも考えてみると目の前のウニがよりおいしくなるのではないだろうか。
<宇佐見ふみしげ/サカナトライター>
参考文献:荒俣宏『世界大博物図鑑 別巻2 水生無脊椎動物』平凡社