市場の需要が大きい「養殖ブリ」。ブリといえば魚食魚として有名ですが、いま「昆虫を食べさせて育てたブリ」が話題になっています。
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昆虫飼料で育てたブリが話題に
日本でもっとも消費されている養殖魚・ブリ。そんなブリの養殖業界で先日、耳目を引きそうなニュースが発表されました。そのニュースとは「昆虫飼料を与えたブリの養殖に成功」というものです。
このブリは、大手商社「丸紅」が開発した、昆虫を用いた養殖魚向けの飼料を使って養殖されたもの。用いられた昆虫は小動物の飼料として高い需要があるゴミムシダマシ類の幼虫、通称「ミールワーム」で、通常の養殖飼料同様にペレット状に加工して与えられます。
2月に少量を先行出荷し、イタリアンレストランで提供、消費者の反応を見ながら小売店などへの販売も開始する予定だそうです。
なんでブリに虫食べさせるの?
これを聞いて、少なからぬ人が「なんでブリに虫を食べさせるの?」と不思議がるのではないかと思います。ブリといえば魚食魚の代表格であり、小魚を飽食してあっという間に大きくなるイメージがあります。
実際、一般的にブリの養殖に用いられるのは、ペルー沖が主要産地であるカタクチイワシの一種「アンチョビ」を魚粉にし、ペレット状に加工したものです。しかし近年、乱獲や気候変動の影響でアンチョビ魚粉が高騰しており、また自然原料を使用することが持続可能ではないとされ、環境面からの指摘も大きくなっています。
今回開発された飼料は、その問題となる魚粉を昆虫原料に置き換えたもの。そのため魚粉が高騰しても飼料の価格に響きにくく、また養殖昆虫は天然魚粉よりも生産時に必要なエネルギーが小さいため環境面でも優れています。
養殖魚では2例目の成功、今後も続くか
昆虫を用いた飼料で養殖に成功したのは、今回のブリが2例目。初めて成功したのはこちらも日本人にはおなじみ「マダイ」であり、様々な魚種に応用可能な技術であることがわかりつつあります。
御存知の通り、昨今昆虫を食材として注目することが増えていますが、少なからぬ人が虫を食べるということを敬遠しており、「人が食べるものとしての昆虫食」の未来はまだどうなるかわかりません。
しかし「昆虫で魚を育て、その魚を食べる」のであれば、嫌悪感を抱く人もそこまで多くはないのではないかと思われます。今後も様々な養殖魚で昆虫飼料を用いて育てる例が増えるのではないでしょうか。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>