今注目される「ブルーカーボン」。その担い手は実は「海藻」だけではないのです。
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各地で「アマモを植える活動」が実施
静岡県熱海市にある企業が、海草の一種「コアマモ」を熱海市の沿岸に植える活動を実施しています。
この活動は「熱海ブルーカーボンプロジェクト」の一環。同県屈指の海水浴場として名高い西伊豆の土肥海水浴場で、海水浴客の邪魔になるとして除去される予定となっていたコアマモを採取し、熱海に移植するというものです。現在は移植を行った熱海周辺海域で成長の経過を観察しているそうです。
同様の活動として、神奈川県葉山町でも地元団体主導でアマモの植え付け活動が実施されています。この活動を通し、かつて町内の海域に当たり前に存在したという「アマモ場」の再生を目指すといいます。(『熱海の海で「ブルーカーボンプロジェクト」 藻場の再生による漁業支援や温暖化対策に』熱海経済新聞 2021.8.27)
「海藻」ではない「海草」アマモ
上記の活動において移植されている「アマモ」は、日本近海においては非常に特異的な植物の一つと言えるものです。その最大の特徴は「海の中に生える」ということです。
海の中に生えている植物と聞くと「ワカメやコンブも海の中に生えているし、普通のことでは?」と思う人も多いと思いますが、実はアマモはワカメやコンブのような「藻類」ではなく、陸上に生える一般的な「草」です。したがって胞子で増えるのではなく、普通の植物と同様に花が咲き種子ができます。
アマモはかつて陸上の植物だったものが海中に適応するように進化した植物であると考えられています。そのため「海藻」ではなく「海草」のひとつとされます。
なおアマモ類は、水質のよい浅く砂泥質である水域にしか生えないため、海岸の指標生物(環境の汚染度合いを示す生物)とされることもあります。
アマモの水質浄化能力
浅い場所に群生するアマモは、波に対し障害物となって水流を和らげたり、大きな魚介類が入り込みにくい環境を作り出します。そのためアマモの群生する「アマモ場」は、小魚や小動物にとって非常に大切な、生態系を支える場所となっています。そのためアマモの生息地を増やすことは、海洋資源の増加につながるのです。
さらにアマモは窒素やリンなどの有機物を盛んに吸収するため、水質浄化能力が高い植物であるとされます。そこに加えて、最近とくに注目されているのが「ブルーカーボン」としての役割です。
ブルーカーボンとは、海洋生物によるCO2の貯留機能のこと。ブルーカーボンのうち最大のものは、マングローブ林や塩性湿地、海草藻場などの沿岸浅海域の生態系であると言われ、これらが貯留する炭素の量は海洋全体が年間に貯留する量の8割近くにも上ります。
アマモは海中に生息して海水内のCO2を吸収するのに加え、潮が引い水草「アマモ」が『ブルーカーボン』運動を促進? 待機中のCO2も吸収て植物体が海面上に露出した際には大気中のCO2も直接吸収していることが最近判明しました。そのためブルーカーボンに着目する上では欠かせない存在なのです。アマモを殖やし、アマモ場を回復させることは、温暖化をストップするために非常に重要なことであるといえるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>