「ブルーカーボン」という言葉をご存知でしょうか。多くの人にとっては聞き慣れない言葉かと思いますが、今後の地球環境を改善する切り札としていまとても注目されているものです。
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「藻場」となった神戸空港
大阪湾の沖合に浮かぶ、埋め立てによって作られた新しい人工島である神戸空港。その成り立ちから、一見すると環境破壊の権化のようにも思える存在ですが、実はその周辺の海は様々な生き物が生息する海域になっています。そしてその豊かな海をもたらしているのは、他ならぬ神戸空港島です。
この空港島は、造成するに当たり、環境保全に寄与するために様々な工夫が行われました。その一環として、通常なら海底からコンクリートが直立するはずの護岸を、緩やかな傾斜を持つ藻類が育ちやすい構造にしてあるのです。
この構造のおかげで、空港島の周囲ではシダモクやワカメといった浅瀬を好む海藻が大量に育つ「藻場」となっています。この藻場が魚やエビなどの産卵場となって、大阪湾全体の生態系に貢献しているのです。
カーボンクレジットとは?
この神戸空港周辺の藻場において、神戸市がいまユニークな「実証実験」を行っています。それは「海藻のCO2の吸収量に応じてカーボンクレジットを発行する」というもの。
カーボンクレジットとはかんたんに言い換えると「温暖化ガスの排出削減効果を取引できるかたちにしたもの」です。これを用いることで、たとえばとある事業において発生するCO2排出量を、購入したカーボンクレジットによって相殺する形で数値上の削減を行うことなどが可能になります。削減に貢献していることをアピールポイントとしたい企業などに需要があると見込まれています。
神戸市の事例については、神戸空港周辺の藻場を増やすとどのくらいCO2の吸着量が増えるのかを第三者機関が評価して、それを金銭価値に換算してクレジット化します。このカーボンクレジットが購入されることによって、藻場をさらに拡充させる活動のための資金の確保にもつながるそうです。
ブルーカーボン運動
今回の「藻場」のような、海中の生態系によって吸収されるCO2を「ブルーカーボン」と呼びます。
とあるデータによれば、ある年の人類の活動によって排出されたCO2のうち陸上の生態系が吸収したCO2(グリーンカーボンと呼ぶ)は12%だったのに対し、ブルーカーボンは31%にものぼったといいます。そのため、いま汎世界的にブルーカーボン運動が推進されているのです。
我が国でもこの神戸空港の例のようにいくつかの試みが始まっています。代表的なものには、東京湾でコンブの養殖を行いCO2の削減効果を調査する「横浜ブルーカーボンプロジェクト」などがあります。
普段目にすることが少ないために意識することもない「水中の森」。その役割に目を向けていくことが、環境問題を考えていく上で重要になってきているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>