全国津々浦々に様々な種類がある「雑煮」。基本的には具をたっぷり使った豪華な椀物というイメージがありますが、なかには一見地味な「海藻」という具を用いたシンプルなものも存在します。
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様々なタイプの雑煮
正月の食卓に欠かせないものといえばやっぱり「雑煮」。具の入った汁に餅が入った椀物、という定義こそありますが、その内実は多種多様。全国に様々なバックグラウンドから成立した様々な種類の雑煮文化があるのはよく知られているとおりです。
丸餅か角餅、醤油ベースか味噌ベースなど系統立てて分類するのもいまや一般的ですが、それでも多くの地域においてお雑煮は、飾り切りした野菜や高級海産物などが入っており、お祝い事にふさわしい「豪華さ」があるものです。
しかし地域によっては、それとは対照的な「非常にシンプルな仕立て」の雑煮が親しまれているところもあります。その代表例が「海藻」が主役の雑煮を食べる以下の2地域でしょう。
千葉の「ハバノリ雑煮」
千葉県房総半島の沿岸部では、磯に生える海藻の一種「ハバノリ」を使った雑煮が食べられています。ハバノリはノリと付きますが、いわゆる板海苔にされるスサビノリ、アサクサノリとは縁遠い種類です。生のときは青臭みが強いですが、干すと非常に香り高くなります。
仕立ては非常にシンプルで、かつおだしがベースの汁に焼いた角餅を入れ、上から干して炙ったハバノリを砕きながら振りかけるだけ。見た目も作りも雑に見えますが、香ばしい海苔の風味と餅との相性が抜群に良く、一度口にすれば「なるほど、これはごちそうだ」と思える味わいです。
当地では「これがないと新年を迎えた気になれない」と言われるほど愛されている雑煮だといいます。
島根には「ノリの雑煮」
ハバノリ雑煮ほど知名度があるわけではないが、山陰地方にある島根県にも、海藻が主役の雑煮が存在しています。当地で用いられるのは「ウップルイノリ」というノリの一種。外洋性のノリで、一般的なノリの原料であるスサビノリよりも色や風味が強く、板海苔にしたものは高級品です。
こちらの「ノリ雑煮」も、シンプルな出汁に茹でた丸餅を入れ、上にノリをかけただけというもの。口にすると強い磯の風味が口いっぱいに広がります。
海藻類、とくにノリの仲間には旨味成分を多く含むものが多く、また香りがごちそうとも言われる食材です。そのため、これを入れるだけで雑煮の風味がぐんと良くなることから、ほかの具材を入れる必要がない、と言えるのかもしれません。
シンプルな具材で美味しいこれらの「海藻雑煮」もまた「贅沢な雑煮」のひとつだといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>