「食材にされる生き物の幸せを考える」という動きが今、イギリスで始まっています。その対象にイカやタコ、さらにエビやカニまでも含まれることになったとのことです。
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「苦痛を与える調理法」は禁止?
歴史的に先進国で有り続け、様々なルールの先駆者となってきたイギリス。
そんなイギリスの政府がこの度、本年5月に可決された「動物福祉法案」の保護対象に、新たにイカ・タコなどの「頭足動物」や、エビ・カニ・ロブスターなどの「十脚甲殻類」を追加すると発表し、国際的な話題となっています。
今回の決定により、今後これらの生物を生きたまま冷凍したり、茹でて調理したりすることは「非人道的」だとして糾弾される可能性が高まりました。
なぜ今?
今回の決定の背景にあるのは、イギリス政府が進めている「動物福祉法」です。
同政府は本年5月、動物を保護し、その福祉を確立するための措置を導入する、一連の行動計画を発表。ペットや家畜、野生動物の福祉施策に取り組むことを表明しました。
当初、この法案により保護対象となるのは「感覚を持つ動物」とされ、体に背骨を持つ「脊椎動物」のみとしていました。
しかし、同国の調査機関「ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス」の調査チームが、300件以上の科学的研究をもとに、頭足類の軟体動物と十脚甲殻類についても「感覚があると見なされるべき」だと結論づけ、政府に上申したそうです。
これにより、これらのような無脊椎動物も当法案で保護され、動物福祉を考慮されるべきだ、という結論になったのです。英国の政府担当官はこの様な動物保護の考え方について「非常に先進的で、各国も追随するべきものである」という認識を表明しています。
水産業への影響は?
今回の決定を鑑み、当局はイギリス国民に対して、これらの生物を調理する際は「極端な方法」で殺生することがないよう勧告を出しています。順当に考えれば、意識のあるロブスターやイカを茹でることは今後同国では法で禁じられることになるでしょう。
当局はまた、今回の決定について「水産業界に大きな負の影響を及ぼすことはない」としています。ただし、現時点で「どうすれば非人道的にならないか」についての具体的な指針は示されておらず、水産業者にとって頭痛の種になるのは間違いなさそうです。
少なくとも「意識がなくなったことを確認する」必要ができ、手間が増えるのは不可避でしょう。これに関しては、もしかすると日本が世界に先行している、魚介類の「活け締め」の技術が役に立つかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>