世界都市ロンドンを還流する、英国を代表する川・テムズ川。ここで行われた生物調査でなんと「毒をもつサメ」が見つかったというのです。
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「テムズ川」に毒サメ
「シャーロック・ホームズ」シリーズなどに登場する、イギリスを代表する川・テムズ川。そんなテムズ川でこのたび「毒を持つサメ」が見つかったと、英ロンドン動物学会が発表しました。
今回行われた調査では、和名ではイコクエイラクブカやホシザメ、ツノザメと呼ばれる種類のサメが見つかったそうです。このうちツノザメにはいくつかの種類がありますが、いずれも背びれの前部に太い棘を持ち、刺されると毒が注入され痛みや腫れを引き起こすという特徴を持っています。
またツノザメの棘はそれ自体も非常に鋭く、捕獲すると暴れるため、不用意に触れると大怪我を負わされる恐れもあります。ホホジロザメやメジロザメのような牙は持たないものの、危険なサメのひとつなのです。
そもそもなぜツノザメが?
ツノザメは実は「深海性のサメ」の代表的なものとして知られているものです。我が国ではアブラツノザメ、フトツノザメなどいくつかの種類が知られていますが、そのいずれもが深海性です。河川という浅い場所で見つかると聞くと違和感を持つ人は多いかもしれません。
またそもそもツノザメ類はいずれも海水魚であり、テムズ川で見つかったという事自体、非常に奇妙ではあります。これは一体どういうことなのでしょう。
実は今回の調査は、テムズ川の「感潮域」、つまり河口域でも行われているものです。テムズ川の河口はエスチュアリーという広い入り江になっており、水深があって満潮時には海水がたくさん入ってきます。
加えてツノザメ類は、緯度が高く水温の低い地域では、通常の生息域からやや浅い場所まで上がってくる習性があるとも言われています。これらの理由から、今回の「テムズ川での調査」で確認されたのではないかと思われます。
今回の結果が「喜ばしい」ワケ
今回の調査はいわばテムズ川の「健康診断」とも言えるものでした。ロンドンという世界的な都市を流れるこの川は、産業革命以降長らく環境が破壊され続け、深刻な汚染により1957年には「生物学的な死」を宣告されてしまいました。
しかし近年では、排水の規制や浄化技術の向上によってテムズ川の水質は劇的に改善。上記のサメ類が見つかったのも、その努力の結果だと言われています。
今回の調査ではほかにもタツノオトシゴの仲間やウナギ、アザラシなど多様な生物が見つかったと発表されました。ロンドン動物学会はこの結果を、野生生物や生態系の回復にとっての「朗報」と位置付けています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>