ハタ科の中でも屈指の高級魚として知られるキジハタ。最近は釣りのターゲットとしても大人気なこの魚、いま東日本で数を増やしているようです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
キジハタの稚魚放流
山口県下関市の「下関フィッシングパーク」で9月13日、高級魚として知られるキジハタの稚魚2000匹の放流が実施されました。稚魚は下関市の栽培漁業センターが用意したもので、大きさは7cmほどです。
キジハタは全国的にも水揚げ量が少ないことや市場価値が高いことから、「幻の高級魚」とも呼ばれることもあります。近年は釣りのターゲットとしても人気が出てきており、専門の釣り具もたくさん発売されています。
ただ、山口県内で釣りなどで漁獲した場合、持ち帰ることができるのは大きさ30cm以上の成魚に限定されています。このサイズになるまで3~4年はかかるといわれており、この成長の遅さもまた高級魚とされる理由のひとつです。
山口県ではこのキジハタを県の特産品としてPRしています。
キジハタってどんな魚?
キジハタは、沿岸の浅いところに生息する、小型のハタの一種。メスのキジにも例えられる鮮やかな斑点模様が和名の由来です。
西日本では和名よりも「アコウ」の呼び名で知られています。ハタ科の中でもとくに味の良いものとして知られ、「夏のアコウ・冬のフグ」のように対比されることもあります。
その魅力は身質の良さだけではありません。小さくても脂がよく乗り、また皮目にゼラチン質が多く、生、焼き、蒸し、煮のあらゆるジャンルでその魅力を発揮します。クエやマハタなど超のつく高級魚を数多く含むハタ科の中で、この小さな魚が存在感を発揮しているのにはちゃんと理由があるのです。
東日本でも一般的な魚に?
基本的に南の温暖な海に多く生息するハタ科の魚。キジハタもかつては「西南日本の魚」というイメージが強い魚でした。
しかし彼らは、大阪湾や瀬戸内海など冬に水温が下がる地域にも生息しており、ハタ科の魚の中では低水温に強いと見られています。最近は海水温暖化や日本海の水温上昇に伴い、とくに北陸地方での水揚げが急増しているようです。
また太平洋側では、相模湾以北ではこれまであまり見られることはありませんでした。当然、釣りのターゲットとしてもメジャーなものではありませんでしたが、最近はこちらでも分布域を北上させているようです。
ここ1、2年は東京湾内でも少なからず釣られるようになっており、数を増やしているのは間違いありません。定着し、繁殖が行われている可能性は高いと言えるでしょう。
温暖化で魚種交代
北日本でのサンマやサケの不漁とブリの豊漁など、温暖化により魚種が変わることが多くなっている現代。
地域の漁業のことを考えると喜べるものでは全くないのですが、キジハタの味を知っている人間からすると、増えるのは正直嬉しく思ってしまうところもあります。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>