知る人ぞ知る高級魚アカヤガラにそっくりなのに「色が違う」だけで全く相手にされない魚がいます。
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高級魚「アカヤガラ」
一般人のなかでの知名度は決して高くないものの、釣り人や漁師の間では「高級魚」と認識されるような魚がいます。そのひとつに挙げられるのが「アカヤガラ」。
アカヤガラは全身が真っ赤で非常に細長く、頭部と尾部がそれぞれ体長の3分の1ほどにもなる不思議な形状をした魚です。しばしば1mを遥かに超えるサイズまで成長しますが、このような特徴を持つため可食部が少なく、歩留まりの非常に悪い魚です。
しかしこのアカヤガラには「味が非常に良い」という特徴があります。きめ細やかな身質で心地よい弾力があり、噛みしめるとわずかに甘みも感じられるこの魚は、割烹料理の素材にピッタリ。旬の秋になると水揚げは増えますが、高価なこともあり一般の魚屋やスーパーに並ぶことは少なく、市場から料理店に直行してしまいます。それ故に一般的な知名度は高くないのです。
赤がいれば青も黄もいる
そんなアカヤガラは、実はタツノオトシゴと同じトゲウオ目に属する魚。ヤガラ科というグループに属し、同科には他に「アオヤガラ」がいます。
アオヤガラは名前の通り青みがかった緑色をしており、つられたりして興奮すると黒い縞模様が体表に浮き上がります。海面近くを泳ぐことも多く、釣りをしているとしばしば足元を漂うように泳いでいるところを見かけます。
また、ヤガラ科と近縁のヘラヤガラ科に属する「ヘラヤガラ」というものもいます。こちらは黄色がかった色あいが特徴で、ときに眩しいほどに黄色い個体もいます。
彼らはいずれも小魚を主食とし、その細長い口で勢いよく吸い込むように摂取します。南の海の浅い場所に多いこともあって、ダイビングや水族館で人気の魚たちとなっているようです。
アオヤガラは未利用魚
アオヤガラ、ヘラヤガラはいずれも、西南日本の沿岸では一般的な魚のひとつ。定置網漁などでしばしば漁獲され、水揚げ自体は少なくありません。
しかし、彼らはいずれも漁業的な価値がほとんどなく、獲れても廃棄されてしまういわゆる「未利用魚」となってしまっています。実はアオヤガラはアカヤガラと比べて小さくて肉量が少なく、ヘラヤガラは小骨が多く食べづらいという、流通する上で致命的とも言えるデメリットがあるのです。
しかし、骨の多いヘラヤガラはともかく、アオヤガラは身そのものはアカヤガラそっくりで、身の味もアカヤガラと比べるとややさっぱりしているものの、美味といって良いレベルです。50cmほどの「大型」の個体であれば刺身で美味しく、小型のものも軽く干して塩焼きにするとサヨリに似てなかなか乙な味がします。
アオヤガラも、一度口にすればきっと「捨ててしまうのはもったいない」と思えるはずなのですが……見た目の特異さもあり、アカヤガラのように流通するようになる未来はなかなか想像できません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>