魚の生食を愛する我が国で最大の敵とも言える寄生虫・アニサキス。しかしこの度、彼らをほぼ完璧に駆除できる手法が発明され、いま話題となっています。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
アニサキス殺虫技術が開発
鮮魚による食中毒事故でもっとも多い要因のひとつ・アニサキス。サバに多く寄生することで知られていますが、他の魚でも種類によっては高い確率で寄生しており、また鮮度に関係なく、生食では中毒事故を引き起こす可能性があります。
そんなアニサキスを「殺虫」するための技術・装置が、熊本大学産業ナノマテリアル研究所と、鮮魚販売の企業との合同研究チームによって開発され、先日公開されました。
その殺虫方法は「塩水中に入れた魚の切り身に、瞬間的超巨大電流(パルスパワー)を流す」というもの。この手法では、魚の身質に影響を与えることなくアニサキスを駆除することが可能だそうです。試験ではアジのフィレに1000匹のアニサキスを仕込んで殺虫装置にかけたところ、すべての個体を殺虫することに成功したといいます。
今後は装置の改良を進め、より低コスト、省エネルギーで殺虫処理できる条件を検証するとのこと。現在製造済みのプロトタイプ機では一度に3kgのアジフィレを殺虫できるのですが、今後は商品化に向け、より大量に処理可能な装置の開発を目指すそうです。(『パルスパワーを用いた新しいアニサキス殺虫方法を開発―アニサキス食中毒リスクのない刺身― 』熊本大学・株式会社ジャパンシーフーズ プレスリリース 2021.6.22)
この技術はなぜすごいのか?
アニサキスは酸などの物理攻撃に強く、これまでは「目視で取り除く」以外には「冷凍」か「加熱」するしか駆除する方法がありませんでした。そのため、アニサキスに寄生されている可能性のある魚を生食するためには一旦冷凍し、再び解凍するという処置を取るしかありませんでした。
しかし、どれほど注意して冷凍しても、解凍後はどうしても食感が悪くなり、ドリップが出て食味評価も下がります。また販売時はラベルに(解凍)と表示しないといけないため、消費者からも敬遠されがちです。
しかし、今回開発された技術では冷凍を行わず、また大電流とはいえ瞬間的に通電するだけなので加熱もされません。そのため、魚の身質を損なうことなくアニサキスが殺虫できるのです。
加えて用いるのは塩水だけで、薬品等人体への影響が懸念される媒体も一切使用されません。非常に安全かつ安心して利用できる技術なのです。
サバ料理に革命も
アニサキスはサバやタラ、イカなどを生食した場合に中毒事故が起きやすいです。そのため、これらはいずれも生食で美味しい魚ながら、やむを得ず加熱調理を行ったり、生食する場合は細かく切る、飾り包丁を入れるといった処理が必要となってきました。
また、鮮魚店では万が一を懸念し、これらの刺身や寿司の提供を見送るところも多くあります。しかし、アニサキスが確実に殺虫できるようになることで、これらの魚も安全に生食料理を提供できるようになるでしょう。
とくにサバは生食では魚類中屈指の美味ながら、アニサキスのためにとくに東日本で生食が敬遠されてきました。しかし今後は、福岡名物の「胡麻さば」など、サバの生食料理も全国でブームになるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>