日本全国に存在する「貝焼き」文化 貝殻は名調理器具だった?

日本全国に存在する「貝焼き」文化 貝殻は名調理器具だった?

「焼き貝」とは違う「貝焼き」。様々な貝の殻を鍋にして作るこの料理は、一言では語れないほど、全国各地に様々な種類が存在します。

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いわき市の「ウニの貝焼き」

福島県の南端に位置するいわき市のいわき市漁協は今月6日、同市が誇る大規模漁港のある小名浜の加工畜養施設にて、今季初となる「ウニの貝焼き」の加工作業を行いました。

日本全国に存在する「貝焼き」文化 貝殻は名調理器具だった?ウニの貝焼き(提供:PhotoAC)

初日の加工作業で貝焼きにされたのは、市内の下神白採鮑組合が前日に水揚げした「キタムラサキウニ」約40kgの可食部(生殖巣)。同組合員の家族などが、ウニの身を当地名産のホッキガイの貝殻に盛り付け、蒸し焼きにしました。

完成品はひとつ100gほどで、その日のうちに出荷され、市内の魚市場で1個あたり3,000~5,000円ほどで取引されたそうです。キタムラサキウニ漁は6月頃に本格的なシーズンを迎え、貝焼きの生産個数も増やす予定だそうです。(『「ウニの貝焼き」始まる いわき市漁協が今季初』福島民報 2021.5.7)

各地の貝焼き

「ウニの貝焼き」はいわき市の郷土料理で、新鮮なキタムラサキウニの生殖巣をホッキガイの殻に4~5個盛りつけ、石を敷いた鍋で焦げないように蒸し焼きにしたというものです。ウニが豊富に取れる当地ならではの名物料理ですが、実は名前こそ違うものの、茨城県や岩手県など近隣地域にも同様の料理が存在しています。

いわき市に隣接する、茨城県北端の都市北茨城市では、同地で多産するチョウセンハマグリの殻にウニを盛り付けて蒸し焼きにするものが存在し「焼きガゼ」と呼ばれています。また、より北の岩手県でも、沿岸各地で「ウニをアワビの殻に盛り付け蒸し焼きにしたもの」が知られ、こちらは「焼きカゼ」と呼ばれます。

ガゼ、カゼはいずれもウニの地方名なので、意味合いとしてはいずれも「焼ウニ」ということになりますが、貝の上に乗せて焼くのでこれもまた「貝焼き」の一種であると言えるでしょう。

貝で焼くのはウニだけではない

ここまでは「ウニの貝焼き」を紹介してきましたが、実は貝殻の上で焼かれる食材はウニだけとは限りません。所変われば全く別の食材を殻の上で焼いた「貝焼き」が存在します。

例えば東北地方の青森県から秋田県にかけては、ホタテガイの殻の上で各種食材を調理する「貝焼き(かやき、かやぎ)」の文化が残っています。中でも有名なのはホタテの大産地として知られる青森県陸奥湾沿岸で、ホタテの身を味噌とダシで煮た「貝焼き味噌(かやきみそ)」という料理が存在しています。

日本全国に存在する「貝焼き」文化 貝殻は名調理器具だった?ホタテガイの殻を使った「貝焼き」(提供:PhotoAC)

他にも秋田では当地特産品であるハタハタの魚醤「しょっつる」を使った出汁でハタハタなどの具を煮る「かやき」が、同じく日本海沿岸の島根県にはアワビの殻の上で鶏肉を煮る「貝焼き」が存在します。貝殻の調理器具としてのポテンシャルの高さに驚かされますね!

<脇本 哲朗/サカナ研究所>