ブラックバスやブルーギルの増殖など、外来種問題に揺れてきた琵琶湖。現在、これらの魚食魚とは違った、全く意外な「外来種」の存在が問題となりつつあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
琵琶湖の水産物・アユ
全国の内水面漁業において主要漁獲物となっている淡水魚の女王「アユ」。中でも「湖産アユ」と呼ばれる琵琶湖のアユはその特性から、地域を超えた重要水産物となっています。
一般的なアユは成長すると河川に上り大きく成長するのに対し、琵琶湖のアユは、春に琵琶湖へ注ぐ川を遡る一部の個体を除き、大部分は琵琶湖に残って生活し、あまり大きくなりません。これらは成長しても10cm程度の大きさにしか成長せず「コアユ(小鮎)」と呼ばれることもあります。
「コアユ」は鱗が細かく、丸ごと食べる料理に向いているために珍重されますが、それ以上に重要なのが「養殖種苗」としての需要です。
「コアユ」を他の河川に放流すると一般的なアユと同じようなサイズにまで成長することが知られており、またそのような「湖産アユ」は活発で攻撃的な性質を持ち「アユの友釣り」の好対象となるため、河川放流用として盛んに漁獲され、各地に移送されているのです。(『滋賀県 春 コアユ』プライドフィッシュHP)
2017年は壊滅的不漁
湖産アユは資源量が多く、毎年安定した水揚げがあり、各地に放流されてきました。しかし2016~7年にかけて記録的な不漁に襲われ、休漁や休業に追い込まれる漁師が出るなど問題となりました。
この前年に滋賀県水産試験場が行った調査では、アユの産卵数は平年の倍以上確認されており、豊漁が期待されていました。しかし蓋を開けると漁獲は前年10分の1程度しかなく、さらにそのはっきりとした原因もわかりませんでした。
最終的な漁獲量は、解禁直後の16年12月は8.4t、17年4月末まででも12.7tに留まり、全国の河川への放流などに必要な量を満たすことができませんでした。(『琵琶湖からアユが消えた 昨年比10分の1…「45年漁師やってて初めて、最悪や」“異変”の正体は?』産経WEST 2017.4.24)
植物プランクトンが不漁原因?
この不漁の原因については、温暖化の影響や降水不足による産卵遅れなど、様々な要因が指摘されているのですが、それに加え意外な「敵」の登場が影響しているのではないかという説が唱えられています。
2018年にかけ、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの研究員が琵琶湖水の調査を行った結果、とある大型植物プランクトンの異常増加が確認されました。「ミクラステリアス・ハーディ」と呼ばれるそのプランクトンはもともとオーストラリアなどに棲息する外来種で、どのようにして琵琶湖に棲息するようになったのか、はっきりしたことはわかっていません。
ミクラステリアス・ハーディは全長180μmほどと植物プランクトンの中ではかなり大きな部類で、在来の動物プランクトンであるケンミジンコ類のエサとなるには大きすぎます。
そのため、天敵がいない湖水の中で増殖し、結果としてケンミジンコのエサとなる在来植物プランクトンが減少、それによりケンミジンコも減り、それをエサとするアユの数も減ってしまった、と考えられるそうです。(『琵琶湖アユの不漁、原因は? 低迷期に大型植物プランクトンが大量増殖、食物連鎖に変化』京都新聞 2020.11.2)
ブラックバスなどの外来魚食魚による食害はしばしば聞く話ですが、外来植物プランクトンによる「食物連鎖の崩壊」もまた在来種に大きな影響を与えるということがわかりますね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>