九州南部・熊本県天草地方の川で、なんと「サケ」が捕獲されました。なぜこんな場所にサケがいたのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
熊本の河川に「サケ」!?
熊本県天草諸島の小川で、散歩中の高校生が大きな魚影を発見し、捕らえてみるとなんと「サケ」だった、という出来事が話題になっています。
場所は天草諸島最大の島・天草下島南西部の魚貫町を流れる川。両側が護岸になっており、幅2mで深さは膝上程度しかないごく普通の小河川です。発見者の高校生は「スズキかと思い捕らえてみると、70cmを超えるサケだった」と語り、集落では「こんな川にサケが登ることがあるのか」と騒ぎになったそうです。
このサケは集落のみんなで、北海道の有名なサケ料理「ちゃんちゃん焼き」にして食べるとのことでした。
熊本で見つかった理由
「北国の魚」というイメージの強いサケ。なぜ、暖流の当たる温暖な天草の川で見つかったのでしょうか。
今回捕獲されたのはいわゆる「秋鮭」と呼ばれるシロザケ。北海道や北日本で多く漁獲される魚ですが、実は意外に広く分布しており、日本海側では島根までは自然分布域で、江の川などで遡上が確認されています。
九州でも、北端の福岡・遠賀川などで少数の個体が確認されています。ただ、今回のように熊本で発見されるのは初ではないかと見られています。
川で生まれ、成長すると海に下り、産卵のために生まれた川に戻ってくる「母川回帰」で知られるサケですが、ときに迷子になってしまうこともあるそう。今回のサケもそのような迷子の個体で、満潮に乗ってこのような小川まで上がってきてしまったと見られています。(『サケは何しに天草へ? 体長70センチ、地元高校生が捕獲』熊本日日新聞 2020.10.20)
太平洋側の南限は千葉
このように、日本海側では広く分布するサケ(シロザケ)ですが、太平洋側での分布はどうなのでしょうか。
茨城県を流れる「久慈川」や「那珂川」では毎年サケの遡上が確認されており「有効利用調査」という釣りによる漁獲も行われ知名度が高いため、このあたりが南限と思われていることが多いようです。
しかし、実際はもう少し南、千葉・九十九里浜の栗山川が自然分布域の南限とされています。ここは古くからサケの登る川として知られ、上流の香取市山倉には811年の創建と伝えられるサケの神社、山倉大神もあります。房総と聞くと温暖な海を思い浮かべてしまいがちですが、九十九里浜は韓流である親潮の影響もあり寒い海域の魚も多く生息しているため、サケが回遊・遡上することが可能なのです。
ちなみにシロザケではなりませんが、近縁種のギンザケは東京湾内で捕れることがあります。ギンザケは最近、筏や釣り堀で養殖が行われるようになっており、逃げ出した個体が東京湾内に棲息しているのだそうです。過去には横浜の海釣り公園で釣れたこともあり、ちょっとしたニュースになったことも。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>