免疫力を高める効果があると言われる藻類「イデユコゴメ」。淡水に棲息する藻類なのですが、このたびなんと「海水内で」培養することに成功したというニュースが発表されました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
イデユコゴメの大量培養に成功
先月末、とある藻類に関するニュースが界隈を賑わせました。国立遺伝学研究所の研究員が、微細藻類の一種「イデユコゴメ」を大量培養する手法を開発した、というものです。
免疫力を高める効果がある?
イデユコゴメ、という名前を聞いたことがある人はほとんどいないのではないかと思いますが、実は現在非常に注目されている藻類のひとつです。各種栄養を豊富に含み、摂取した生物の免疫力を高める効果があるとされ、そのため畜産や養殖漁業における飼料原料に用いることで、病気の低減や成長の促進につなげることができるのではないかと期待されているのです。
この研究所では、今回開発された培養技術を2~3年後までに実用化し、さらに5年後までに技術を確立させることを目指しているそうです。(『国立遺伝研チーム 栄養豊富、免疫高める微細藻類を大量培養』静岡新聞 2020.8.25)
イデユコゴメの特徴
イデユコゴメを漢字で書くと「出湯小米」となるのですが、出湯とは「温泉」のこと。その名の通り、温泉の源泉などに棲息する特殊な藻類です。実はイデユコゴメはただの水中ではなく、pH1~3の強酸性、35度~55度の温度という極限環境で育つことができる特殊な藻類なのです。(『「イデユコゴメ」って知ってますか?』草津三湯めぐり)
pH1の水というのは食酢よりもはるかに酸性度が高く、鉄製品を入れると溶けてしまうほど。当然ほとんどの生物は棲息できない環境ですが、このイデユコゴメという原始的な藻類は棲息することが可能です。
国内でもトップクラスの酸性度を誇る名湯・草津温泉では、「湯畑」などの源泉付近でイデユコゴメが生育している様子を観察することができます。
なぜ海水で培養したのか
そんな特徴的な藻類であるイデユコゴメですが、今回成功した培養技術はさらに特殊な方法でした。それはなんと「海水中で培養する」というもの。淡水性の藻類であるイデユコゴメを、わざわざ海水中で培養する理由とは何なのでしょうか。
実はこの海水はただの海水ではなく「人工的に酸性化した海水」。酸性の海水は自然環境下には存在せず、仮に別の生き物がその中に入り込んでもすぐに死んでしまいます。しかしそもそも強酸環境下に棲息するイデユコゴメは、徐々にこの環境に慣れさせることで最終的に適応し、増殖できるようになるといいます。
このような環境を用いることで、屋外の池などで行う開放培養が可能になり、低コストで大量培養することが可能になります。規模や立地の制約を受けずに大量培養できるため、産業への活用が大いに期待されています。
将来的には動物ではなく、人間用の食品への活用も行われる可能性もあるといいます。いつの日か、我々の食卓にもこのイデユコゴメが登場することがあるかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>