漁業や釣りの世界ではあまり珍重されないソウダガツオ。大きくならないことや中毒リスクがあることが原因なのですが、高知ではそんなソウダガツオの「新子」がカルト的な人気を誇っています。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
ソウダガツオとは
「ソウダガツオ」という魚をご存知でしょうか。名前の通り、カツオと同じサバ科に属する回遊魚の一種で、見た目も「小さいカツオ」のような感じですが、異なる種の魚です。マルソウダとヒラソウダの2種類がありますが、しばしば混同されています。
岸から狙える釣りのターゲット
このソウダガツオ、知らないという人も少なくないと思います。しかし、本家のカツオよりも岸近くを回遊するため、陸からでも釣り上げることが可能なほど身近な魚なのです。定置網漁などではこの時期たくさん水揚げがあるのですが、残念ながらその多くは加工用に回され、鮮魚として販売されることはほとんどありません。
欠点は「鮮度落ちの早さ」
実はこのソウダガツオ、筋肉中の血合いの部分がとても多く、鮮度落ちが極めて早いという欠点があります。鮮度が悪くなったソウダガツオの筋肉中には「ヒスタミン」というアレルゲン物質が大量に含まれ、そのため食べると蕁麻疹が出たり体調不良になったりすることがあります。
これもあって、釣りでもよく釣れる魚であるにも関わらず、とくに船の釣りでは外道扱いされて嫌われることも多い、ちょっとかわいそうな魚なのです。
実は「超美味」なソウダガツオ
しかしこのソウダガツオ、実は知る人ぞ知る非常に美味な魚なのです。上記の通りヒスタミンが生成されやすいものの、それはサバなども一緒。新鮮な状態を保っていればヒスタミンは含まれず、中毒の危険もありません。
そして、ソウダガツオはそばつゆに用いられる「宗田節」の原料となるほど濃厚な旨味を持っています。新鮮なソウダガツオは「モチガツオ」と呼ばれることもあるほど身に強い弾力を持ち、噛みしめると濃厚な赤身の旨さ、スッキリとした酸味そして歯ごたえの良さが楽しめます。
晩夏から秋にかけては皮下脂肪が分厚い層をなし、赤身魚とは思えないほど白くなります。こうなると並のカツオでは太刀打ちできない旨さとなり、「赤身魚の中でもトップクラスの味」だと評価する人もいます。
「足が早くヒスタミンが怖い魚」というイメージで必要以上に恐れるのは、とてももったいないことだといえるでしょう。
高知県の人が心待ちにする「新子」
そんなソウダガツオは、「カツオの国」高知県でも非常に人気がある魚です。当地ではマルソウダ・ヒラソウダどちらも「めじか」と呼ばれ、鮮魚としても惣菜魚としても愛されています。
その中でもとくに、8月下旬から9月上旬にかけて水揚げされる「新子」はまさにカルト的な人気。まるでろうそくのように細長く頼りなげな見た目ですが、これを新鮮なうちに皮ごと刺身にして食べるととても美味なのです。一般的にはポン酢をかけますが、当地ではブシュカンと呼ばれる香酸柑橘をかけて食べるのが人気だそう。
大人気の「新子まつり」
この新子がどれだけ愛されているかは、高知県土佐清水市に「めじかの里土佐清水」という道の駅があることからも推測できると思います。また9月には同県須崎市で「新子まつり」というイベントも開催されています。
このイベントは、須崎市の商店主や鮮魚商によって構成された「須崎新子まつり実行委員会」によって主催されるもの。当日はめじか新子の刺身が大量に振る舞われ、それを目当てに高知県や四国、その他の地域からも大量の客が集まるそうです。
2019年の開催時には朝から200人を超える人が行列を作り、待ち時間は90分以上、初日だけで2000匹以上のめじかが売れたといいます。(『新子まつり大盛況 きょう9/1まで 須崎市』高知新聞 2019.9.1)
ソウダガツオがここまで主役になれることは、他の地域やイベントではまずないことだと思います。残念ながら今年はコロナで中止になってしまったそうですが、来年以降の復活が期待されています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>