日本人にとって最も馴染みのある魚であるコイ。食用にする地域も多く、その美味しさには定評がありますが、実はとある部位だけは口にすることができません。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
淡水を代表する食用魚・コイ
我々日本人にとって最も身近である魚は何かと言われれば、多くの人が「コイ」と答えるのではないかと思います。ありとあらゆる川や湖、池に棲息し、その雄大さや威厳のある見た目によって古くから愛されてきた魚です。
また同時にコイは、食用魚としても長い歴史を持っています。現在でも長野県や岐阜県の内陸県、あるいは福岡県や茨城県など大河が貫流する県では食用にする文化が広く残っています。このような地域ではスーパーマーケットで切り身が販売されることも珍しくなく、ごく一般的な食材として認識されています。
どんなエサでも大きく育つため、かつては野菜くずなどの生活ゴミで養殖が行われることもありました。最大で1mに迫るほどの大きさがある上に味もよく、うま煮のようにじっくり加熱するものから、洗いなど生食に近いものまで様々な料理で賞味されています。コイと言う名前は「味が『肥え』ている」ところから漬けられたという説もあるくらい、美味しい魚です。
調理時には胆嚢に注意
そんなコイですが、日本では鯉こくやうま煮など「内臓ごと味わう」調理法がポピュラーです。これは鮮度の良い状態で調理するために下処理の手間を減らす必要があること、そして卵巣や肝臓などの美味しい部位が多いことによるものです。
そのため、調理の前に一度きれいな水の中に離して消化管の中身をすべて排出させた上で、内臓ごと切って調理することが多いのですが、その際にひとつだけ注意しなくてはいけないことがあります。それは「胆嚢を切ってはいけない」ということ。
コイ目魚の胆嚢は黒みがかった青緑色でラグビーボール型をしており、大きな肝臓の裏に埋もれるようにして存在しています。多くの動物がそうであるように、コイの胆嚢にも強烈な苦味があります。料理人の間では「苦玉」と呼ばれており、これを潰すと他の部分にまで苦味が回ってしまうため料理が台無しになると言われています。鰓蓋と腹鰭の間くらいにあるので、解体の際は包丁が当たらないように注意しないといけません。
実は死の危険性も
そんなコイの胆嚢ですが、実は料理がダメになってしまうだけでなく、無理に食べると体に害が及んでします可能性もあります。というのも、コイ目魚の胆嚢は「コイ毒」と呼ばれる強毒を含んでいることが多いからです。
このコイ毒は胆汁酸(5-αチブリノールとスルフェノール)という成分から構成されており、摂取してしまうと嘔吐や下痢など消化器系の中毒、さらには腎不全、肝機能障害など重篤な症状も引き起こすことがあります。中国では同じコイ目のソウギョで中毒例があり、少なくない死亡例があります。(『自然毒のリスクプロファイル:魚類:胆のう毒』厚生労働省)
コイやソウギョは魚体が大きく、胆嚢のサイズも必然的に大きくなります。そのため場合によっては1匹分の胆嚢だけで重篤な症状に至ることがあり、注意が必要です。
ちなみにこのコイの胆嚢はかつては「鯉胆」という名前で生薬に用いられており、滋養強壮、眼精疲労に効果があるとされていましたが、毒性の強さからむやみに手を出すべきではないものだと言えるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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