初夏が旬「ケンサキイカ」は呼び名が複雑 アカイカもシロイカも同種?

初夏が旬「ケンサキイカ」は呼び名が複雑 アカイカもシロイカも同種?

美味な高級イカの代表格であるケンサキイカ。各地で漁獲されており、「地方名」の数がたくさん。かなりややこしい事になっているようです。

(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース編集部)

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初夏が旬のケンサキイカ

初夏になると鮮魚店の店頭に並び始めるケンサキイカ。アオリイカやヤリイカに並ぶ高級イカのひとつで、おもに南西日本の各地で漁獲されています。ヤリイカと比べるとやや寸詰まりなシルエットをしていますが、大きいものでは外套長40cmほどにも達し、なかなかの価格で売られます。

初夏が旬「ケンサキイカ」は呼び名が複雑 アカイカもシロイカも同種?新鮮なケンサキイカの活造り(提供:PhoteAC)

特筆すべきはやはりその味の良さ。その柔らかい身には強い甘さがあり、産地で食べる新鮮な刺身は絶品です。また干物にしたものは「一番スルメ」とも呼ばれ、代表的品種であるスルメイカのスルメと比べると希少価値が高いです。

決して安いイカではありませんが、「イカの中で一番美味しい」と評価する人も多く、値段に見合った価値のある魚介だと言えるでしょう。

呼び名が複雑なケンサキイカ

そんなケンサキイカですが、高級であるにも関わらず、他のイカと比べ知名度はやや低いように感じます。高級故にスーパーマーケットにはあま り出回らず、一般消費者にとって身近でないというのもありますが、それ以上に「ケンサキイカと気づかずに食べられている」のが大きいかもしれません。

実はケンサキイカはイカの中でもトップクラスに地方名が多く、消費者や漁業者を困らせることがしばしばあるのです。ただ名前が多いと言うだけでなく、一見すると「真逆」のように思えるものもたくさんあります。

例えば色味を表現している地方名だと「シロイカ」と「アカイカ」があります。ケンサキイカは水揚げ直後は透明感のある白色なのですが、死後少しすると赤くなっていきます。そして鮮度が落ちると今度は濁った感じの白になります。

初夏が旬「ケンサキイカ」は呼び名が複雑 アカイカもシロイカも同種?新鮮なうちは赤みが残る(提供:野食ハンマープライス)

ややこしいことに地域によってはソデイカなど他の赤いイカを「アカイカ」と呼ぶことがあり、名前だけではどのイカを指しているのかわからない場合があるのです。

形状からの名称も様々

形状を表すものだと「マルイカ」「ダルマイカ」といった、正式和名とは正反対に思えるような名称があります。

初夏が旬「ケンサキイカ」は呼び名が複雑 アカイカもシロイカも同種?釣りの対象としても人気の高いマルイカ(提供:週刊つりニュース編集部)

ヤリイカと比べるとやや丸いシルエットをしているケンサキイカは、特に幼イカのときには「マルイカ」「ダルマイカ」と呼ばれることが多いのです。ちなみにケンサキイカの「剣先」とは、他のイカと比べると細長くとがる外套の形状に由来しています。

そのほか「マイカ」「ミズイカ」もややこしい地方名です。それぞれの地域で最もよく獲れ、身近なイカのことをマイカ(真イカ)と呼ぶことが多いのですが、長崎や山陰ではこのケンサキイカをマイカと呼びます。全国的にはスルメイカのことをマイカと呼ぶ地域が多く、また関東ではシリヤケイカのことを、瀬戸内ではコウイカのことをそう呼ぶ事があるので、これも混乱を招く原因です。

そのほか高知県ではケンサキイカのことを「スルメイカ」、熊本県では「ヤリイカ」と呼ぶようなこともあるそう。このあたりはそれぞれの正式和名のイカと混同されているということもあるかも知れません。(『ケンサキイカ』ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑)

旬もバラバラ

ケンサキイカは漁期が4月~11月と長く、一本釣りを始め様々な漁法で漁獲されています。普段はやや深い場所に棲息しているイカなのですが、初夏頃には産卵のために接岸するため、入荷量が増えます。この「漁の旬」がちょうど今の時期で、抱卵しているため、卵と身を一緒に賞味できる煮付けなどの加熱料理に向いているとされます。

一方、魚同様に抱卵していない時期のほうが身が厚く、刺身にする場合はこちらのほうがよいとされます。産卵が終わり、体力が回復した7~9月は「味の旬」ということができるでしょう。

初夏が旬「ケンサキイカ」は呼び名が複雑 アカイカもシロイカも同種?最近は輸送技術が発達し、各地のケンサキイカを賞味できる(提供:PhoteAC)

そのほか、山陰で漁獲される、中型で腕が太いタイプの「ブドウイカ型」と呼ばれるケンサキイカは、秋から初冬にかけて旬を迎えます。他にも各地に個体群があり、漁獲時期や旬がちょっとずつ異なるようです。

美味しいイカであるケンサキイカですが、より最高の味わいを求めるためには、サイズや調理法、産地によって違う旬を知り、使い分ける技術が必要となるかも知れません。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>