近年、漁獲量の減少が問題となっている、兵庫県の特産品「イカナゴ」。今回、全国初の「科学的な原因解明」がされたようです。兵庫県と水産技術センターに取材しました。
(アイキャッチ画像提供:兵庫県立農林水産技術総合センター 水産技術センター)
どのような調査をおこなったのか
そうしてイカナゴの不漁要因を探るための調査がスタート。イカナゴ減少要因の科学的な解明に至るまでには、驚くほど緻密なデータ解析がされています。その分析手法について、兵庫県の水産技術センターに詳しく話を聞いてみました。
「栄養塩と漁獲量」の因果関係を調査
兵庫県の水産技術センターによると、まず栄養塩と漁獲量がおおよそどのような関連性を持っているのかを調査したそうです。グラフでその推移を見てみると栄養塩濃度(下記図中の「DIN:溶存無機態窒素」)が高い1990年前後はイカナゴも豊漁でした。一方で、栄養塩が減少している1990年代後半以降はイカナゴの漁獲量も大幅に減少していることが分かります。
このデータからも「栄養塩濃度がイカナゴの漁獲量に影響する傾向がある」ということが分かります。しかし、これだけではイカナゴの減少要因を「科学的に解明した」とは言えません。
そこで、調査チームは以下1~5の「イカナゴ減少のシナリオ」を立てました。
1. 海域の貧栄養化
2. イカナゴのエサ不足
3. イカナゴ肥満度の低下
4. 産卵数の減少
5. イカナゴの減少
このシナリオを調査によって立証していけば「海域の貧栄養化(栄養塩不足)がイカナゴ減少の要因である」と言えることになります。
イカナゴのエサ不足を数値化
次に調査チームは、栄養塩不足でイカナゴのエサとなるプランクトンが減少していることを立証するべく、採取したイカナゴの胃中のエサ量を測定しました。そのデータが以下図です。
栄養塩が豊富であった1990年前後に比べると、2000年以降は食べているエサの量がガクンと落ちています。エサの不足と比例して、イカナゴの肥満度も年々減少していることが分かりました。(下図参照)
孕卵数の低下
次に「栄養不足はイカナゴの卵の数にも影響するのでは?」と仮説を立て、実際に孕卵数(持っている卵の数)を調査したとのこと。その仮説は正しく、同じ体長であるにもかかわらず、昔と比較して近年のイカナゴの孕卵数は大きく減少していることが分かりました。
この数々の調査によって、イカナゴ減少のシナリオ通りに「栄養塩濃度が低くなるとイカナゴの数も減少する」ということが科学的にも立証されたことになります。
さらに緻密な調査も
上記は調査内容の一例となりますが、調査チームはその他にも緻密な検証を重ねることで「栄養塩とイカナゴの漁獲量の関連性」を分析しています。内容は論文レベルの話になるため、調査の全てをご紹介することはできませんが、具体的な内容を知りたい方は「『豊かな瀬戸内海の再生を目指して』(引用:兵庫県立農林水産技術総合センター 水産技術センター)」からご覧ください。調査チームの情熱が伝わってくる肉厚な内容となっています。
調査結果の活用に期待
今回の調査により、全国で初めてイカナゴ減少の要因が科学的に立証されたことになります。しかし、「調査内容をどのように活用するのか」が最も重要であり、これからが取り組みの本番と言えます。
兵庫県は調査内容を環境省や水産庁に提出し、「豊かな瀬戸内海の再生に向けた施策の推進」を働きかけていくとのこと。
「豊かな瀬戸内海を取り戻す」を合言葉に、同県の挑戦は続いていきそうです。
取材協力:兵庫県 農政環境部 農林水産局 水産課
取材協力:兵庫県立農林水産技術総合センター 水産技術センター
<田口/TSURINEWS編集部>