静まり返った夜の水面に、突如響き渡るド派手な捕食音。そんなナマズ釣りが静かなブームになっている。だが、その味を知っている人がどれだけいるだろうか。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース中部版 APC・浅井達志)
古くから食べられてきたナマズ
ナマズの仲間は世界中に数千種類いると言われ、多くの国で好んで食べられている。わが国でも古くから食材として親しまれ、室町時代の文献には、かまぼこの材料はナマズという記述もあるそうだ。
そんなナマズも、今では一部の地域で郷土料理として食べられるだけになってしまった。中部圏では、岐阜県海津市の千代保稲荷(おちょぼさん)が有名だ。水郷地帯だけに老舗(しにせ)の川魚料理店も多く、参道には何軒もの店が軒を連ねる。ここでは名物となっているナマズのかば焼きの他にもコイやフナ、モロコ、川エビなどといった多彩な川魚が味わえ、多くの参拝客でにぎわう。
泥抜きは必須
今や高級食材となってしまったナマズはおいそれと手を出せる値段ではないが、釣り人には自給自足という手段がある。ナマズはしばらく泥を吐かせる必要があるため、必ず生かしたまま持ち帰りたい。
衣装ケースや漬物樽などの大きめの容器に水を張り、暴れて飛び出さないようにフタをしてエアレーションしながら日の当たらない場所で1週間。水道水でも意外と大丈夫だが、毎日の水替えだけは忘れないように。大変な作業のように思えるが、真夏の高水温にさえ気を付ければ特に難しいことはない。
氷水で締める
泥抜きが済んだら、いよいよ料理に取りかかる。煮付けや天ぷらもおいしいが、ここはやはり豪快にかば焼きといきたい。魚が大きいだけに暴れると大変なことになるので、まずは氷水に1時間ほど浸けて仮死状態にする。その間に、バーベキューコンロに火を起こしておこう。姿焼きにするので、家庭用のグリルには到底収まらない。炭がいい状態になるころには、ナマズもすっかりおとなしくなっているはずだ。
このとき、大切なことが1つある。それは絶対に、あの愛きょうのある顔を見ないということだ。見てしまうと、あとの作業に差し支える。ここは感謝しつつも、心を鬼にして次の工程に移ろう。
捌きと焼き
まずは魚体をしっかり押さえ、出刃包丁で脳天を一撃。魚が絞まったら背中側から包丁を入れて背開きにする。頭が硬い場合は出刃を当ててハンマーでたたくか、見栄えを気にしないのであれば落としてもいい。
中骨はそのまま、エラやハラワタを取り除いたら裏返し、表面のヌメリを包丁でこそげ落とす。これで処理は完了だ。滑りやすいので、ケガを防ぐためにも軍手をしておくといいだろう。
あとは皮を下にして網に乗せ、焦げ目が付いたらひっくり返して身の方も焼く。火が通ったらかば焼きのタレ(市販品でOK)をはけで塗り、これを数回繰り返して出来上がり。
十分に焼かないとくさみが出るので、焦らず遠火でじっくりと、が基本だ。豪快な姿焼きは、みんなで集まって食べれば盛り上がること間違いなし。コロナ禍が収束した際にはぜひお試しいただきたい。
味は淡泊で美味
さて、気になるお味の方はというと、これが予想以上。見た目からは想像もできない淡泊な白身だが、適度な歯応えと上品な味わいでウナギとはまた違ったおいしさがある。よく比較されるが、味の方向性が違うので優劣は付けがたい。脂っこいものが好きならウナギ、そうでなければナマズに軍配が上がるだろう。
ウナギの代替とよく言われるが、それはナマズに対してあまりにも失礼だ。ナマズはあくまでもナマズ。ウナギの代わりにはならないし、そんなことをする必要もない。
<週刊つりニュース中部版 APC・浅井達志/TSURINEWS編>