食材として人気の高い二枚貝。流通技術の発達により、これまではあまり目にしなかった種類の貝も売られるようになっていますが、その中でもトップクラスにマニアックな「オキシジミ」という貝があることをご存知でしょうか。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
高騰する二枚貝
春になると、鮮魚店に様々な二枚貝が並びます。ハマグリやアサリ、シジミなどのメジャーな貝はもちろん、トリガイやアカガイのような高級貝、最近ではそこに加えてホンビノスガイやサラガイなどもしばしば見かけるようになりました。
様々な料理に利用でき、簡単に旨味を取ることができる二枚貝は食材としての需要が高く、アサリやハマグリなどは近年、価格が高騰しています。そのためこれまではあまりメジャーでなかったものにも需要が発生し、販売されるようになっています。
その中に、国内の広い地域に棲息するにも関わらず、全くと言っていいほど知名度がないものが存在します。
オキシジミって知っていますか?
最近、都心の大型鮮魚店で、きれいな円に近いシルエットをした二枚貝が売られているのを見かけることがあります。紫がかった灰色で厚みのある殻を持ったこの貝は「オキシジミ」といいます。
1kg1000円程度の価格がついており、アサリなどと比べると安価で手に入れやすい貝なのですが、その知名度の低さゆえか購入する人はあまり多くないようです。
しかし、実はこの貝、お隣韓国ではとても人気のある貝なのです。当地ではモシチョゲと呼ばれ、潮干狩りのメインターゲットのひとつ。また、この貝を使って作る辛いスープは国民食のひとつで、人気ドラマ「深夜食堂」が韓国でリメイクされた際にはこれが登場しています。(『深夜食堂 fromソウル 第4話 オキシジミ汁』BS-TBS)
実は簡単に採れるオキシジミ
ここまで読んで「自分も食べてみたいな」と思う方がいらっしゃれば、ぜひご近所の鮮魚店を覗いてみていただきたい……のですが、上記の通り我が国ではまだまだマニアックな存在。愛知家三河湾周辺など一部の地域でしか漁獲されておらず、流通に乗ることが少ないため、見つけられない可能性も高いです。
しかし、実はこの貝、東京湾など身近な海にもたくさん棲息しているのです。とくに多摩川、江戸川などの大きな川が注ぐ干潟にはかなりの高密度で棲息しており、そのような場所で潮干狩りをすると漁獲の殆どがオキシジミになるほど。
潮干狩りにおいてもオキシジミの知名度はほとんどなく、その真っ黒な色味(酸素の少ない干潟に棲息する貝は、還元の効果で色が黒くなる)も相まってターゲットとしての人気は皆無。ライバル皆無なので容易に採集可能なのです。
食す際の注意点
ただ、2点だけ、注意が必要なことがあります。まず、オキシジミはアサリのように砂出しをすることが難しい貝なので、一度酒蒸しにしてむき身にしてから砂を洗い流すことで美味しく食べられるようになります。
また都心の海で採れたオキシジミには、ちょっと癖のある匂いがあるものがあります。この匂いは上記の処理で消すことができるのですが、それでも匂いが残るような場合は食べるのをやめて破棄したほうが良いでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>