中国による再びの禁輸に揺れる日本のホタテ漁。しかし本当の危機は生産現場にありました。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
中国に揺さぶられるホタテ業界
世界一美味しいとも言われる国産ホタテ。ホタテの生産方法には水中に吊り下げて育てる「養殖ホタテ」、稚貝を海底に撒いて半野生的に育てる「栽培ホタテ」の2種がありますが、いずれも高品質で世界的にも評価されています。
ホタテの養殖(提供:PhotoAC)これらのホタテは国内でももちろん消費されますが、近年は国外への輸出品として非常に重要な地位にあります。とくに中国においては、ホタテの貝柱を干したものがフカヒレ、アワビ、浮袋とならぶ「四大乾貨」のひとつとして珍重されており、日本から大量に輸入していました。
しかし2023年、日本が福島第一原発の処理水の海洋放出を決定したことに中国が強く反発し、日本からの海産物の輸入を全面凍結しました。2025年の11月にその処置は解除されたのですが、今度は日本の高市首相の台湾有事に係る発言が中国の反発を招き、再び凍結、現在に至ります。
ホタテは「中国に売らなくとも良い」時代に
メディア各社による報道は、中国の禁輸措置が日本のホタテ生産現場に動揺をもたらしていると伝えています。しかし実際のところ、そこまで大きなダメージは表れていないのではないかと思われます。
そもそも中国は担当者や政情によって施策がころころ変わるというのがよく知られています。担当者がそれまで構築した関係性や実績すらも勘案されず、上位下達で現場に即さない変更が行われるため、取引先としてはリスクが高い国なのです。
水揚げされたホタテ(提供:PhotoAC)そのため、このような「チャイナリスク」を念頭に置いて、水産輸出関連各社はかねてから中国以外の販路を開拓してきました。それが実を結び、ホタテ貝柱の価格は中国が大量に輸入していた2022年より、禁輸措置中だった2025年上半期のほうが高い状態となっています。つまり、すでに中国依存はほぼないと言っていい状況なのです。
生産量減少が大問題
ただ一方で、そもそも国産ホタテの生産量は先行きに大きな不安を抱えています。
ホタテ主要産地のひとつ陸奥湾では数年前から不漁が続いていたのですが、2025年は稚貝のへい死率が9割に及ぶところもあり、まさに壊滅状態です。またもう一つの主要産地である北海道でも、能取湖、サロマ湖、噴火湾で稚貝の大量へい死が発生。噴火湾では長期にわたる貝毒で水揚げができない日々も続きました。
ホタテの稚貝(提供:PhotoAC)稚貝のへい死や貝毒発生の長期化は、海洋温暖化により北海道沿岸の海水温が大きく上昇していることが原因と見られています。しかしそれとは別に、そもそも沿岸地域の開発や自然破壊によりホタテの餌となるプランクトンが少なくなっていて、ホタテが育ちにくい環境となってしまっているという主張もあります。
中国がどうこういう前に、そもそもホタテを輸出しようにもできないという状況が来るかもしれません。そうならないように、まずは稚貝へい死の原因究明、対策の確立、並行して沿岸の自然環境の保全などを行っていかないといけません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>


