魚介の「身と内臓」を混ぜて放置すると美味しくなるワケ 塩辛は消化酵素が決め手

魚介の「身と内臓」を混ぜて放置すると美味しくなるワケ 塩辛は消化酵素が決め手

各地に伝わる「魚の塩辛」はその多くが、身と内臓を合わせて熟成させる形で作られています。一体どういうメカニズムで塩辛になっていくのでしょうか。

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「イカの塩辛」に混ぜ物は不要

魚介類に塩を混ぜて熟成させることで作られる「塩辛」。中でも最も有名なものといえば「イカの塩辛」でしょう。

魚介の「身と内臓」を混ぜて放置すると美味しくなるワケ 塩辛は消化酵素が決め手イカの塩辛(提供:PhotoAC)

イカの塩辛は、イカ類の中でもひときわ大きな肝(中腸腺)をもつスルメイカを原料に作られます。肝と身のそれぞれに塩をして水分を抜き、絞り出した肝と刻んだ身とを和え、熟成させると完成します。

本来のイカの塩辛は、このように肝と身、そして塩だけで作ることができます。市販品にはこれ以外にも甘味料など様々な加工品が入っているのですが、これは保存性を高めるために塩を多めに使わざるを得ず、それを打ち消すために用いられているものです。味の面で言えば、やはりシンプルな素材で作られたものには敵いません。

他にもある「魚介の塩辛」

イカの塩辛ほどの知名度はありませんが、魚介を使って作る塩辛の仲間はたくさんあります。

例えば「酒盗」。これはカツオの消化管を刻み、塩をして熟成させたものです。濃厚な旨味と風味で焼酎が止まらなくなることから、酒盗という名前がつけられました。

魚介の「身と内臓」を混ぜて放置すると美味しくなるワケ 塩辛は消化酵素が決め手酒盗(提供:PhotoAC)

ほかにも、淡水魚であるアユを用いて作る「うるか」も有名な塩辛の一種です。これは消化管とアユの切り身、あるいは卵巣などを塩とともに混ぜ合わせ、熟成させて作られています。

ややマニアックなところでは、山陰地方から北陸地方にかけて、サバのぶつ切りを内臓とともに塩漬けにして熟成させた「サバの塩辛」が販売されています。

身と内臓を混ぜると美味しくなるワケ

これらの塩辛の作り方を見ておわかりの通り、魚介類の塩辛を作るときに、その内臓は欠かせません。内臓だけで作る例もある一方、身だけで作るというのは殆どありません。

これはなぜかというと、塩辛は内臓に含まれた「消化酵素」を用いて熟成させる調理法だからです。動物は死ぬと、自分の消化管に含まれる消化酵素によって自己消化が行われ腐敗していくのですが、その最中にタンパク質が自己消化されることで分解され、旨味成分であるアミノ酸に変化します。

魚介の「身と内臓」を混ぜて放置すると美味しくなるワケ 塩辛は消化酵素が決め手チャンジャ(提供:PhotoAC)

もしこの「自己消化」をコントロール下に置くことができれば、恣意的にタンパク質をアミノ酸へと変質させることが可能になります。その最も簡単な方法が、内臓と身という食用部位のみにしたうえで、塩分濃度を高めて雑菌の繁殖を防ぎ、消化酵素の力だけでゆっくりと消化を進めていくというもの。そう、つまり塩辛なのです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>