出汁の素や食材としてわが国の食卓に欠かせない煮干し。名前の通り魚を「煮てから干した」ものですが、なぜわざわざ一度煮るのでしょうか。
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日本の「煮干し」がアジアで人気
日本の食卓に欠かせない食材のひとつ「煮干し」。特に西日本で広く使われていますが、最近では国内だけでなく海外でも人気が出ているといいます。
中でも特にアジア圏ではここ数年、おやつ用の煮干し加工品の人気が高まっています。広島県尾道市のとある煮干し生産会社では、昨年5月期の煮干し輸出量が前年同期比で3倍近い100tにのぼったといいます。
主な輸出先は中国、台湾、シンガポールなど、魚食文化に抵抗のない地域です。カルシウムなど栄養豊富な点が子育て世代に受けているそうで、かつての日本と同じような評価となっているようです。
そもそも煮干しとは
身近な食材であるものの、実はどんなものなのかよく知らない……という人も多い煮干し。簡単に言うと「小魚を煮たり茹でたりした上で干したもの」です。
煮干しの原料として最も多く用いられるものはイワシ類の一種・カタクチイワシですが、その他のイワシ類や白身魚なども用いられます。南北に長い日本では、各地に独特の魚を使った煮干しが残っています。
煮干しは感想品であるため保存性が高く、出汁を取るための原料に使われるほか、加熱済みなのでそのまま食用にすることもできます。カルシウムを始めとするミネラルも豊富で、健康食品としての需要も少なくありません。
「煮て干す」理由
煮干しは上記の通り「煮てから干す」という工程を経て製造されます。これについて、なぜわざわざ一度煮るのか不思議に思う人も少なくないかもしれません。
煮ることで旨味が抜けてしまう気もするし、普通に考えればそのまま干してしまったほうが手軽で、旨味もたくさん残りそうな気がします。しかし実際はそうではないのです。
生の魚の体内では様々な消化酵素が働いており、その魚が死ぬと消化管の内容物だけでなく、そのものの筋肉をも分解し始めます。タンパク質である筋肉が分解されると、ある程度までは旨味のもとであるアミノ酸が生成されますが、やがてそれすらも分解が進んでいきます。
特に小魚では分解が進むのが早く、加熱していない場合、干し上がるまでに旨味成分の多くが失われてしまうこともあります。そうならないために一度加熱して、酵素を失活化させる必要があるのです。
煮るのではなく焼くなど他の加熱方法で酵素を失活化させることももちろんできるのですが、鮮度が落ちやすい小魚を一度に大量に加熱処理するためには煮るのが一番簡単で良い方法。もちろん煮る際にその旨味が多少抜けてしまう可能性はあるのですが、それよりも保たれる旨味、そして得られるメリットが大きいのが「煮干し」にするという方法なのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>