高級魚の代名詞である「大間まぐろ」や「関サバ」は、いずれも地域名をブランドとしています。しかしこの「地域名ブランド」、現状と異なっているものも少なくありません。
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大間のマグロの定義を変更
世界一高価なマグロとして知られるブランド「大間まぐろ」。初セリの時には1尾数千~億円もの価格を付けることもあり、国内はおろか国外でも高い知名度を誇ります。
その大間まぐろを管轄する青森県大間町の大間漁業協同組合が11月1日、「大間まぐろ」の定義を変更すると発表し、話題となりました。
これまでは大間まぐろを名乗れるのは「大間沖で獲れたクロマグロ」に限定されてきました。しかし今後は漁場を問わず「大間の港に水揚げされ同漁協が荷受けしたクロマグロ」に変更するのだそうです。
「ブランド名」=「地名」?
とある魚をブランド化する際、多くの場合においてその根拠とされるのは「産地」です。そのためブランド魚は産地名を冠することが多くなっています。軽く例を挙げても、大間まぐろ以外にも大分県佐賀関町の「関アジ・関サバ」、福井県の若狭湾で育つ「若狭ふぐ」など枚挙にいとまがありません。
一方で、これらの魚の「生息場所」は、実はブランド名と必ずしも一致するわけではありません。例えば東京湾の高級サバ「松輪さば」は、神奈川県三浦市松輪地区だけでなく、東京湾内全域で漁獲されます。
これはなぜかというと、一般的に魚の産地は「水揚げ地」で定義されるから。その極端なものがカツオで、各地で出港した漁船が群れを追って全国の海を駆け回るため、宮城沖で獲れたものが焼津産になったり、高知沖で採れたものが気仙沼産になったりすることもあります。
産地偽装ではない
今回「大間まぐろ」がその定義を変更するに至ったのは「現状を追認」するため。実は今、大間町が面する津軽海峡周辺では、温暖化でマグロのエサとなるイカなどが減少しており、その結果大間町沖だけでは質のいいマグロがなかなか獲れなくなっているのだそうです。
そのため、漁師たちは良いマグロを求め、津軽海峡のさらに沖、日本海や太平洋まで出ていくこともしばしばだそう。マグロの漁場がどんどん広がっている現状に対し「大間沖で獲れていないのなら産地偽装になるのではないか」という指摘があったために、定義を変更することで対応したのです。
これに対しては「屁理屈ではないか」という声もあがりそうですが、ブランド魚に対して消費者が求めているのは、最終的には名前ではなく品質。ブランド名はその魚の「産地」ではなく「品質」を保証するものだと考えれば、定義変更もさもありなんというべきかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>