海に起こる異常と聞くと「赤潮」を思い浮かべる人は多いと思いますが、いま東京湾では、赤潮よりも被害が大きくなりがちな「貧酸素水塊」が大規模に発生しています。
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東京湾で「貧酸素水塊」が発生
いま、東京湾奥の広い範囲で、海水に異常が発生しています。その異常とは「貧酸素水塊」というもの。これは字の通り「水中溶存酸素量が極めて不足している海水の塊」を指し、これが発生している水域のことを指す場合もあります。
5月下旬頃から川崎港や横浜港、船橋港、千葉港周辺の海水がこの貧酸素水塊となっており、海水中の溶存酸素量が著しく低い状況が続いています。そしてはじめは湾奥部の港湾周辺に限られていたのですが、気温の上昇とともにより広い範囲に広がっていきました。
今月15日時点では、東京内湾(富津と観音崎を結んだラインから北側)の広範囲が貧酸素状態にあります。「海水1Lにつき溶存酸素量2mL以下」という無酸素に近い状態の水域も内湾の半分ほどを占めています。
貧酸素水塊はなぜ発生するのか
貧酸素水塊は、東京湾のような閉鎖的内湾ではしばしば発生し、ここ数年は毎年のように大規模に起こっています。
初夏になり日差しが強くなると、表層の海水が温められ、海底の冷えた海水との間に比重の差が生じます。その結果、表層と低層の水がきれいな層を形成し、互いに混じり合わなくなります。
海の低層では、海底に沈殿した有機物の分解が微生物によって絶えず行われており、酸素がどんどん消費されていきます。しかし上記の通り、表層の酸素を多く含む水と混ざり合うことはないため、やがて低層の海水中の酸素がほとんどなくなってしまい、貧酸素水となります。
閉鎖的な海域では海水の比重差が生じやすく、さらに流入河川から栄養塩がもたらされるためそれを餌とするプランクトンが増え、その死骸(=有機物)も増えるために貧酸素水が生み出されやすいとされます。さらに東京湾のような大都会に面した内湾では、生活排水や工業排水に含まれる大量の栄養塩が河川を通じて流れ込み、常にプランクトンが多い状態にあるため、より貧酸素水塊が発生しやすいのです。