フランスの海で今、タコが記録的な大漁となっており、ニュースになっています。日本であれば喜ばしいニュースなのですが、当地ではどうもそうではないようで……。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
フランスでタコが豊漁
フランス西部の大西洋沿岸でこのところ、タコが近年まれに見る豊漁となっており、話題となっています。現地の新聞によると、ワインで有名なボルドーの少し北にあるオレロン島で豊富な水揚げが記録されており、島の漁師は10月下旬に「タコは普段2日間で20匹程度だが、最近は700kgぐらい獲れた」と語ったそうです。
島の漁港責任者も「昨年1年間で1.8tだった漁獲量が、今年はもう32tを超えている」と語っています。このほか、地元の漁業関係者はメディアに対し「なぜこんなに増えているのか分からない」と語っていると報じられています。
なぜ増えている?
フランス北西部の地域であるブルターニュの海洋生物学者は、今回のタコの異常増殖について「温暖化の影響」を指摘しています。例年と比べ水温がそれほど低くなく、タコが繁殖しやすかったのかもしれないと推測しているそうです。
日本においても、水温とタコの漁獲量に関連性があるという研究結果があります。瀬戸内海・播磨灘のタコの漁獲を調査したこの研究では、1~7月の水温とその年の漁獲量に弱い正の相関性があり、3月の水温とはとくに高い相関性があったといいます。
一方でフランスでは、過去にもっと水温が高かった年があったにもかかわらず、この様なタコが急増した例はないそうで、漁業関係者は首をかしげています。
フランスでタコは不人気
日本ではいまやすっかり高級食材となっているタコ。価格が高くても変わらぬ需要があり、経済価値の高い漁業種となっています。
そのため我々日本人からすれば「グルメが多いフランス人も喜んでいるに違いない」と思いたくなるところですが、実際はそのようなことはないようです。
というのも、フランスでは南部以外でタコを食べることはほとんどなく、食材としての価値はあまりないのです。それどころかむしろ悪魔の魚と呼ばれ、伝統的なモンスター「クラーケン」のモデルともなるほどで、嫌われてしまっている側面もあります。
そういうわけで、今回漁獲されたタコの大半はスペインやイタリアに輸出されるというのですが、普段からたくさん捕れているわけではないので高値で売れる可能性は高いとは言えません。
その一方で、増えすぎたタコが、フランス人が好んで食べる重要水産物であるカキやホタテを捕食することで、水産業に大きなダメージを与える可能性が示唆されています。この様な理由から、当地では今回のタコの豊漁はけして歓迎されてはいないのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>