魚の生食文化を持つ我々日本人の大敵、アニサキス。身近な寄生虫であることから様々な対処法が編み出されてきましたが、そのうちのひとつが科学的に立証されました。
（アイキャッチ画像提供：茸本朗）
TSURINEWS編集部
アニサキスに正露丸が効果あり
胃腸薬の正露丸に、魚の寄生虫「アニサキス」を殺す効果があることが判明したと、高知大理工学部の研究グループが発表し話題になっています。
正露丸を通常服用量溶かした液に、生体のアニサキスを30分間浸す処理をすると、ほぼ全てのアニサキスが運動を停止。さらに24時間後には死んだことが確認されたそうです。
アニサキス（提供：PhotoAC）さらにその後、実験に用いたアニサキスを胃と同じ濃度の消化酵素・ペプシンに浸したところ、24時間以内に分解が始まったといいます。生きているアニサキスは消化酵素に耐え数日生き延びるというので、この実験により正露丸がアニサキスを殺虫する効果が立証されたことになります。（『正露丸にアニサキス殺虫効果 高知大が症状緩和を裏付け』みなと新聞 2021.9.13）
「民間療法」に裏付け
アニサキスは魚の内臓周辺に生息する寄生虫。鮮度が落ちると筋肉中に移行する個体があり、そのような魚を喫食して生きたアニサキスが消化管内に入ってしまうと、激しい腹痛やアレルギー症状、通称「アニサキス症」を引き起こすことが広く知られています。
生きたアニサキスは前記の通り胃酸や胃の消化酵素に耐性があり、消化液中でも1週間近く生きることができます。アニサキス症への特効薬はないとされ、もし発症した場合には、手術でアニサキスを物理的に取り除くことしか対処法はないとされてきました。
生命力が強い（提供：PhotoAC）しかし一方、民間では以前より「アニサキスの胃痛に正露丸が効く」ということが広く言われてきていました。今回の研究により、かねてから行われていた「民間療法」が裏付けられた形になったといえます。
正露丸のパッケージにうたわれている効能は軟便、下痢、食あたり、水あたり、はき下し、くだり腹、消化不良による下痢、むし歯痛となっており、現時点ではもちろんアニサキス症については未記載となっています。今後臨床研究が進めばこちらも効能として掲載可能になるかもしれません。
他の「民間療法」は？
魚の生食を愛する我々日本人にとって、アニサキスは大きな悩みのタネのひとつです。アニサキス症は死に至るものではありませんが、数日の間耐え難い痛みが続くため、古くから様々な「対処法」が考えられてきました。正露丸もそのひとつです。
この他には「横になり、胃酸でアニサキスを殺す」「お湯を飲んで殺虫する」「アルコールで殺虫」などが知られているものかと思います。ただし上記の通り、アニサキスは胃酸中でも数日間は生存が可能なので、「横になる」はあまり効果的とは言えないでしょう。
熱湯を飲めば治る？（提供：PhotoAC）「お湯を飲む」については、たしかに60℃で1分以上加熱すればアニサキスは死滅しますが、お湯を飲むことで胃の中の環境をその状態に保つのは至難の業と言わざるを得ません。
「アルコール殺虫」に関しては、アニサキスのアルコールへの耐性はたしかに高くはないのですが、アニサキスが胃壁に食いついている状態で、アルコール度の高い酒を大量に流し込むのは別の危険性があります。
現時点ではアニサキス症を発症したら、正露丸で耐えるか、やはり手術を受けるのが無難と言えるでしょう。
＜脇本 哲朗／サカナ研究所＞
