漁業による乱獲が問題となる中、「環境に優しい」と注目を浴びている定置網漁。しかし、本当にそうだと言い切れるのでしょうか?
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「定置網漁の見学会」が実施
湾としては日本屈指の水深を誇る富山湾。この湾を抱える富山県では、岸寄りから一気に深くなるその特徴的な地形を活かし、定置網漁が盛んに行われています。
そんな富山湾の漁業基地の一つである富山県氷見市では、夏休み中の子ども達に定置網漁を身近に感じてもらおうと、親子を対象にした漁の見学会が実施されています。氷見市における定置網漁にはなんと400年もの歴史があり、今年2月には農林水産省から「日本農業遺産」にも認定されています。
見学会の参加者は、定置網の仕組みや歴史を学んだのち、実際に作業船に乗り、網に入った魚を水揚げする様子を見学しました。この見学会は非常に人気で今年は初めて開催を4回に増やしたのですが、全回すでに受け付けは終了しているそうです。(『伝統ある定置網漁を身近に…親子で見学』富山テレビ 2021.8.4)
環境に優しいとされる定置網
海上に固定の網を設置し、迷い込んできた魚を漁獲する定置網漁。この漁はいま「環境に優しく持続可能な漁」として各方面から注目を集めています。
海岸と海底に固定して設置する定置網は、底引き網のように海底ごとすくい取ってしまうようなことがありません。また漁船による引網などの漁と異なり、網に入ったあとも移動することが可能なので、一旦入った魚がまた網から出でしまうことがあります。
そのため漁獲の効率が低いというデメリットもあるのですが、その分「そこにいる魚を根こそぎとってしまうことがない」ということでもあります。遊泳してきた魚の一部が漁獲される仕組みのため、一つの魚種への集中漁獲につながることもなく、乱獲が起きにくいと言われることが「環境に優しい」と言われる所以です。
根拠は不明瞭
かつて「定置網は遊泳してきた魚の2~3割しか漁獲されない」という言説がしばしば語られることがありました。筆者も何度か耳にしたことがあるのですが、しかし専門家によると、この数値には根拠となるデータは残念ながらないのだそうです。そのため、定置網漁が本当に乱獲につながっていないのかは、不明瞭なところがあると言わざるを得ません。
定置網ならではの課題も
また加えて、定置網は海中における巨大な建造物でもあるため、海流など海の環境を変えてしまう恐れがあります。最近は使用が規制されましたが、かつては海中の網に海藻類が生えることを防ぐための防藻薬を塗っていたこともあり、これが海中環境に負の影響を与えたという説も唱えられています。
その他、定置網漁ではイルカなどの海獣類やウミガメなどの貴重な生物が迷い込み、死んでしまう例がしばしば発生しているそうです。定置網漁が本当に自然に優しい漁業となるためには、このような各種問題の実情をしっかり調査する必要があるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>