「泳ぐ宝石」と例えられる錦鯉。コイとついているものの、その色合いや存在感は一般的なコイとは似ても似つかないものです。一体彼らは何者なのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
こいのぼりの季節
大型連休のトリを飾る5月5日・こどもの日。この日に向かい、4月下旬頃から各地で「こいのぼり」が飾られます。五月晴れの空に舞うこいのぼりは日本の初夏の景色として最も親しまれているもののひとつでしょう。
子どもたちの健やかな成長を願う「こいのぼり」。コイがモチーフとなっているのは中国の故事に由来がありますが、コイの形の幟を掲げるのは日本発祥の風習で、江戸時代に始まったと見られています。
こいのぼりは各家庭で飾られるだけでなく、最近では町おこしのイベントとして、川や谷の両岸を渡すように大量のこいのぼりを掲げるところも多くなっています。
こいのぼりは「錦鯉」?
そんなこいのぼりですが、昔はいざしらず、現在ではいろいろなカラーリングのものが存在します。黒いものは一般的なコイ(真鯉)と認識されるのが自然かと思いますが、その他の色のものはしばしば「錦鯉」に例えられることがあります。実際にこのような色合いの錦鯉がいるのでしょうか。
黒とセットで飾られ、最もよく見かけるもののひとつ「赤」のこいのぼりはいわゆるヒゴイ(緋鯉)がモデルになっていると思われます。これは錦鯉の一種だといえます。
しかし近年はこの2色に加え、青色や緑色、黄色にはてはピンク色まで、様々なカラーのこいのぼりを見かけるようになりました。これに関して言えば、黄色(金色)の錦鯉は存在しますが、その他のカラーは現時点では存在しないものです。そのため「こいのぼり=錦鯉」としてしまうのはちょっと乱暴かもしれません。ちなみにこのカラフルなこいのぼりたちは、実は錦鯉ではなく「五輪」のマークにヒントを受けて作られたそうです。
錦鯉とコイは同種
流石にピンクや緑といったものはないにしても、赤や黄、白などの派手な色彩が見事な錦鯉。その色合いから、錦鯉はコイとは別の魚だと思われていることがあるようです。
しかし実際のところ、錦鯉はいわゆる「突然変異」で色味に変化の出たコイであり、一般的な黒いコイと遺伝子上は変わりません。魚の色味は皮下にある「色素胞」という細胞によって決定されますが、コイには黒色素胞のほか赤色素胞、虹色素胞が存在しており、それらの働きによって黒くなったり、錦鯉になったりするのです。
江戸時代後期、新潟の中越地方で、突然変異で色の変わったコイ同士をかけ合わせ、様々なカラーリングの個体を作り出したのが錦鯉の発祥だと言われています。今では世界的にファンがおり、「koi」「nishiki-koi」はひとつの共通語と呼べる存在になっているといいます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>