発電所から日々多量に放出される冷却水の排水。水温が高く、海水温暖化の原因とも目されますが、現在この温排水を再利用し「魚の養殖」を行う例が増えているようです。
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「温排水フィッシング」が人気
愛知県碧南市の海沿いにある世界最大級の火力発電所「JERA碧南火力発電所」。その近くの護岸がここ数年、春先に人気のフィッシングポイントになっています。
詰めかけた釣り人が狙っているのは、ニシン科の「サッパ」という魚。瀬戸内ではママカリ、有明海ではハダラという名前で知られる食用魚です。簡単に釣れる魚で、初心者でも数十匹釣れることから人気の釣りターゲットとなっています。
サッパは通常、初夏から秋にかけて釣れることの多い魚。春先のこの時期はあまり姿を見かけることはないのですが、このポイントでは発電所から排出される「温排水」のおかげで水温が高くなっており、これだけ早い時期から釣れると考えられます。(『大量発生の“サッパ”に釣り人集まる 温かい水が影響か 口コミ広がりマナーの問題も 愛知・碧南市』中京テレビニュース 2021.3.5)
温排水と魚
この発電所に限らず、全国各地の発電所近くの海や内水面が人気の釣りポイントとなっている例は多いです。東京湾でも「磯子海釣り公園」は火力発電所の裏に開設されており、一年を通してターゲットが豊富なことで知られています。
火力発電所や原子力発電所は、発電にあたり大量の冷却水を必要とするため、海沿いや川沿いに立地することが多いです。その際に発生する温排水は、取水したときの水温と比べかなり高くなっています。とくに原子力発電所では、その差は平均して7℃にも達するといいます。
そのためこれが海や川に流れ込むと、プランクトンが発生したり、魚の越冬場所になるのです。ただ一方で、近年東京湾などで指摘される急な海水温上昇の一因になっている可能性も指摘されており、環境へ与える影響についても考えなければならない状態です。
養殖にも利用される温排水
このような温排水はいわば「発電所の廃棄物」のひとつ。そのため他の資源ごみ同様「資源」として用いる考え方も盛んになっています。
最近ではその一環として「養殖」に用いる例も増えています。水温が下がる冬の時期は養殖魚も餌を食べにくくなってしまうのですが、温排水で養殖することで一年を通し盛んに摂餌させることが可能になります。また、寒い土地で南方系の魚を養殖することもできるようになるのです。
温排水利用の先進地域である静岡県では、1972年に温水利用研究センターが設立されています。ここでは発電所の温排水を利用し、養殖用種苗の量産や養殖技術の開発、親魚の養成を行っており、現在は、マダイ、ヒラメ、トラフグなどの種苗生産等を実施しているそうです。他にも新潟県の柏崎刈谷原子力発電所や、福井県の若狭湾に面するいくつかの原発で、新しい養殖魚の研究が進められているようです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>