「駿河湾の赤いルビー」と呼ばれることもあるサクラエビ。駿河湾の特産物として知られていますが、実はここ数年駿河湾以外での漁獲が確認されています。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
不漁続く駿河湾のサクラエビ
駿河湾の特産物として名高いサクラエビ。深海性の小型の甲殻類で、オキアミに見間違えられることもありますがれっきとしたエビの一種です。
ピンク色に輝く体が美しく、駿河湾のルビーという異名もあります。殻が柔らかくて旨味が強く、美味で人気の高い食材です。生で寿司ネタにされるほか、かき揚げで賞味されたり、感想品になって流通することも多いです。
このサクラエビ、国内では駿河湾でのみ漁獲されるものとして知られてきました。しかし近年、著しい不漁に襲われており値段の高騰が続いています。禁漁区の設置や漁獲の自主規制なども行われていますが、不漁の原因がはっきりしておらず、先行きは不透明なままとなっています。
実は相模湾でも漁獲あり
さてそんなサクラエビですが、実はここ数年、伊豆半島を挟んだ隣の相模湾でも漁獲されています。沖合1kmほどに張った定置網で、回遊魚などとともに混獲されているといいます。駿河湾と異なり、サクラエビ専用の網による漁獲ではないため仕分けなどの手間は掛かりますが、魚価が見込めるため流通しています。
ただ、漁獲高については現状、不安定な状態が続いています。2017年には過去最高の586kgの漁獲があった一方で、ほぼ揚がらないような年もあるといいます。ただ、2019、2020年はいずれもある程度まとまった漁が水揚げされているといい、今後の漁獲の推移によっては、国内で水揚げして取引されるのは「駿河湾のみ」との定説が覆る可能性もあります。
相模湾でも獲れる理由
サクラエビは深海性で、昼間は水深200~350mの場所に棲息しています。しかし日没にかけて、餌のプランクトンを追いかけて20~60mほどの浅い場所に浮上する「日周鉛直運動」を行う習性があります。
相模湾は日本では駿河湾に次いで水深があり、場所によっては2000m近くに達するところもあります。特に太平洋から伸びる相模トラフが岸近くまで及ぶ湾西部では、岸沿いから急に水深1000mまで落ち込むようなところもあり、サクラエビの棲息に適しているだけでなく、定置網に入り込みやすい地形になっているのです。
相模湾でも近年、様々な魚種の漁獲量低下が指摘されており、このサクラエビは漁業者の貴重な収入源となる可能性を秘めています。研究が進み、相模湾のサクラエビの生態が明らかになることへの期待が大きくなっています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>