天然モノより下に見られがちな養殖魚ですが、技術の発展や意識の変化もあり、いまや「天然物に負けないほど味がよく、環境にも優しい」ものになっているようです。
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注目される「養殖魚」
皆さんは、同じ魚の「天然モノ」と「養殖モノ」がどちらも食べられるとしたら、どちらを選びますか?
きっと多くの人が天然物を手に取るのではないでしょうか。養殖の魚はどうしても「人工的」というイメージがつきまとい、天然魚と比べると一段下に見られがちなところがあります。
しかし最近は、養殖魚のこのようなマイナスイメージは薄れつつあるようです。水揚げが天候に左右されるなど様々な要因で漁獲高が変化する天然魚は、どうして仕入れやすさに波が出てしまいます。それと比べると養殖魚は供給が安定的であり、価格の上下も少ないという大きなメリットがあります。
漁業者が減少し漁獲量が右肩下がりとなっていることもあり、現代では養殖魚の需要は高まる一方。それに伴い、様々な点で「養殖魚」の質の向上が図られています。
養殖魚が評価されるように
とある番組で、味覚センサーで「養殖のマグロ」と「天然のマグロ」を測定し、味の要素にどれだけの差があるかを調べる、という実験が行われたそうです。その結果、うま味・甘味・塩味・酸味・苦味の5大味覚に大きな誤差がなかったといいます。
多くのマグロ養殖場では、養殖にあたり天然のマグロが主食とするイカやイワシ、サバを飼料として与えています。身にうま味が出るようにこれらのエサを調整しながら与えることで、安定したおいしさが生み出せるのだそうです。(『天然ものよりおいしい!? 漁獲量減少で注目の「養殖魚」は価格も安定…養殖マグロの“うま味”を検証』FNNプライムオンライン 2019.10.21)
養殖魚はまた、味が良いだけでなく、環境にも優しいという点でも評価が高まっています。現在世界では様々な魚種が乱獲され、その数を減らしていますが、最新技術を駆使して行われる養殖は、自然界に与える負のインパクトが小さくサスティナブルです。
持続的で環境に配慮した養殖魚であることを認証するMEL(マリンエコラベル)やASC(水産養殖管理協議)といった認証制度もあり、世界的にも養殖魚を評価しようという機運が高まっていると言えるでしょう。
「深海鯛」は天然モノより上?
さて、そんな「進化」する養殖技術の一例として挙げられるのが「深海鯛」。
ブランドマダイ
これは正しくは「深海養殖真鯛」といい、愛媛県の企業によって開発されたブランドです。
マダイという魚は本来、水深40~50mほどのやや深い場所に棲息しています。しかし多くの場合、マダイの養殖は海面付近で行われており、マダイが日焼けで黒くなってしまったり、ストレスによって品質が低下することなどが指摘されています。
「深海養殖真鯛」では、養殖生け簀を本来の棲息域に近い、水深30m以深の場所にまで深く沈めるという手法をとります。これにより日焼けが起こらず、赤色が鮮やかになり、また水圧によって身が引き締まっていて歯ごたえもよく、美味しくなると言います。(『水産事業』株式会社ダイニチHP)
深海鯛の味
筆者も以前居酒屋で食べたことがありますが、丁寧に活け締め処理されていることもあり、本当に天然マダイと変わらないしまった肉質を感じました。加えて養殖らしい脂の乗りもあり、非常に美味しかったと記憶しています。
この「深海養殖真鯛」を始め、現在各地に様々な特色あるブランド養殖魚が存在します。天然モノを遥かに凌ぐような味わいのものもあるので、見かけた折にはぜひ試してみることをオススメします。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>