冬の最高級ガニとして知られるタラバガニですが、近縁種で味も似て、かつ安価な「夏のタラバガニ」こと『ハナサキガニ』を紹介します。
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実はヤドカリの一種「タラバガニ」
泣く子も黙る高級魚介類のひとつ、タラバガニ。タラの漁場で採れるから「鱈場」ガニと名付けられた、深海性の甲殻類です。
タラバガニを見てみると、なにか違和感を覚える人がいるかも知れません。カニと呼ぶには「なにか」が足りないのですが、気づかれるでしょうか。
正解は足の数。普通、カニはハサミを含め5対10本の足があるのですが、タラバガニは4対8本しかありません。実はタラバガニはカニとつくもののヤドカリの仲間。実際は5対目の脚は腹部の内側に存在し、鰓の掃除をするのに用いられます。
食味でもカニ類とは差があり、とくにカニでは珍重される「ミソ」は、タラバガニの場合は生臭みが強くあまり珍重されません。これはヤシガニなど、ヤドカリ類に共通する一つの特徴とも言えます。
タラバガニの一種「ハナサキガニ」
さて、実は「鱈場ガニ」にはいくつか種類があります。深海で獲れるタラバガニ科のカニは食味が似ており、漁業の世界ではいずれもタラバガニとして扱われることがあるのです。
有名なものに、タラバガニと見た目が似ており偽装に用いられたこともある「アブラガニ」がいますが、それよりもう少しマイナーな存在の「ハナサキガニ」というものもいます。
ハナサキガニはトゲだらけでかなりパンチのきいた見た目をしており、花が咲いたような外見をしていることから、または根室の花咲港でよく水揚げされたことから、こう呼ばれています。
ハナサキガニは夏が旬!
タラバガニはその大半を占めるロシア産・アメリカ産が冷凍で輸入されるため、シーズンを問わず同じ味を楽しむことができますが、一方でシーズンを通してかなりの高値。とくに鍋などで高い需要がある冬の時期は年末年始も重なり、値段はかなり高騰してしまいます。
一方、ハナサキガニは夏に旬を迎えるカニ。国産が多い上、サイズもタラバガニより小さく、鍋需要もない時期のためあまり高い値段が付きません。今の時期なら水揚げされたばかりのものが、都心でも1杯1000円程度で手に入れることができます。
価格が安い分味も悪ければどうしようもないですが、ありがたいことにそのようなこともなく、身の味はタラバガニよりもむしろ濃厚に思えることも。ノンフローズン品が手に入ることも、味を楽しみやすい理由です。
身は油味が強く、1匹まるごと食べると胸焼けがするほどです。そのため焼きガニだけではなく、味噌汁などの汁物でもその濃厚なコクが楽しめます。
見た目がいかついために知らない人は手を出しにくい存在でしょうが、味は素晴らしいので、見つけたら是非気軽に購入してみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>