夏の磯魚は「ねこまたぎ」って本当? 実は夏が旬のサカナも

夏の磯魚は「ねこまたぎ」って本当? 実は夏が旬のサカナも

美味しくない魚であることを表す言葉である「ねこまたぎ」。メジナやクロダイなど「磯魚」と呼ばれる魚たちはしばしば「夏はねこまたぎ」と言われています。実際にそうなのでしょうか。

(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)

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魚好きの言う「ねこまたぎ」とは

3800種類以上の魚が棲息している日本。魚が大好きな日本人ですが、それでも食用にされない魚は決して少なくありません。その中にはもちろん「毒魚である」などの理由で食用にできないものも多々ありますが、その他の理由、例えば骨や鱗が硬い、水っぽくて味が悪い、食欲のわかない匂いがするなどの理由で食用にされない物も少なくありません。

このような魚は「魚好きの猫も敬遠して、落ちていても食べすにまたぎ越す」という意味で「ねこまたぎ」と呼ばれます。最近はあまり聞かれない言葉ではありますが、年配の釣り人の中では好んで使う人も多いです。

夏の磯魚は「ねこまたぎ」って本当? 実は夏が旬のサカナもヒラメも時期によっては「ねこまたぎ」(提供:野食ハンマープライス)

「外道」という言葉と共通点はありますが、ねこまたぎの場合「本来は美味しい魚だが、いまは旬ではない」という意味で使われることもあります。例えば今の時期で言うと「夏のヒラメはねこまたぎ」という言葉が有名です。産卵を控えて抱卵しているヒラメはえんがわも小さく脂のりも悪く、普段の美味しさを知る人からするとたいへん物足りない味わいになっており、まさに「ねこまたぎ」という言葉がふさわしく感じます。

夏の磯魚はねこまたぎ?

さて、メジナやクロダイなど、岩礁帯に多く棲息する魚について「夏はねこまたぎだ」と言われることがとてもよくあります。このような磯魚はもともと磯臭さを持つものが多いのですが、夏場の高水温期はその匂いが一層強くなり、美味しくなくなっていまう、と言われるのがその理由です。

夏の磯魚は「ねこまたぎ」って本当? 実は夏が旬のサカナも有名ゲスト魚のアイゴも代表的な「ねこまたぎ」(提供:野食ハンマープライス)

当然、旬とは真逆の時期であると考えられることも多く、「寒メジナ」という言葉に例えられるように、これらの磯魚は水温の低い冬こそが旬だと言われます。またその理由のひとつに「冬は磯についた海藻を食べるようになるので美味になる」などと言われることがあります。

本当に「夏の磯魚」は臭いのか

しかし、本当にそうだと言えるのでしょうか。

「魚 磯臭さ」というワードで検索をしてみると、「ブダイは海藻を食べる冬に磯臭さが抜ける」という言説が見つかる一方で「アイゴやニザダイは海藻を食べるために磯臭さがある」など真逆の見解も少なからず確認されます。「釣り人が使用するオキアミを主食とするようになって、磯魚の磯臭さが減った」という説もしばしば聞かれます。

「磯臭さ」は化学的に言うと、鮮度が落ちた魚から発生する成分で(高濃度では)アンモニア様の匂いを発する「トリメチルアミン」と、植物プランクトンによって生成され「腐ったキャベツのような匂い」と例えられる「ジメチルスルフィド」という2つの成分が混ざり合ってできています。このうち後者は海藻から多く抽出される成分としても知られるので、海藻を主食とする魚が磯臭くなりやすい、と考えるのは自然なことでしょう。

夏の磯魚は「ねこまたぎ」って本当? 実は夏が旬のサカナもニザダイは夏の方が美味しい?(提供:野食ハンマープライス)

夏場の水温が高い時期は魚の鮮度落ちが早く、トリメチルアミンの生成量が多くなりやすいということはあり得ますが、ジメチルスルフィド量の点からすればむしろ「海藻が生え、それを餌とする魚が増える冬場のほうが、多くの魚が磯臭くなりやすい」と言うこともできるのです。

先入観を持たずに「魚の旬」を考えたい

磯臭い魚の代表であり、代表的な「ねこまたぎ」であるタカノハダイは、相模湾や外房では夏が旬とされ、美味しい魚として扱われることも多くあります。筆者も以前、8月に三浦半島・佐島の鮮魚店で購入し食してみたことがありますが、非常に強く脂が乗っている一方で磯臭さはそこまで強くなく、たしかにとても美味しい魚だと感じました。

一方で、冬に伊豆半島で漁獲されたものを食べたこともありますが、脂のりのよいところを中心に磯臭さが強く、とても美味しい魚とは感じられませんでした。地域によって食性が変わることで、季節に関係なく美味しくなったりまずくなったりするのが磯魚の特徴でもあります。

夏の磯魚は「ねこまたぎ」って本当? 実は夏が旬のサカナも真夏のタカノハダイ(提供:野食ハンマープライス)

またメジナと並ぶ磯の人気ターゲット・クロダイはこちらも夏は「ねこまたぎ」とされますが、これは初夏の産卵を済ませた直後で脂のりが著しく悪く、パサパサして美味しくないというのが理由です。決して磯臭さのせいではありません。

いずれにしても「磯魚は~」と十把一絡げに考えるより、その魚の習性を考え、地域ごとの食性や海の環境、さらに食文化なども調べながら、常識にとらわれることなくトライしていくと、結果として美味しい魚にありつけることが多くなると思います。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>